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星の王子さま

サン=テグジュペリ/著 、河野万里子/訳

528円(税込)

発売日:2006/03/28

  • 文庫
  • 電子書籍あり

これまでで最も愛らしく、毅然とした王子さまが、優しい日本語でよみがえります。世界中の子供が、そして大人が読んできた。世紀を越えるベストセラー。

砂漠に飛行機で不時着した「僕」が出会った男の子。それは、小さな小さな自分の星を後にして、いくつもの星をめぐってから七番目の星・地球にたどり着いた王子さまだった……。一度読んだら必ず宝物にしたくなる、この宝石のような物語は、刊行後七十年以上たった今も、世界中でみんなの心をつかんで離さない。最も愛らしく毅然とした王子さまを、優しい日本語でよみがえらせた、新訳。

  • 舞台化
    「星降る夜に出掛けよう」(2023年6月公演)
  • 映画化
    リトルプリンス 星の王子さまと私(2015年11月公開)

書誌情報

読み仮名 ホシノオウジサマ
シリーズ名 Star Classics 名作新訳コレクション
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 160ページ
ISBN 978-4-10-212204-4
C-CODE 0197
整理番号 サ-1-3
ジャンル 文芸作品、評論・文学研究
定価 528円
電子書籍 価格 528円
電子書籍 配信開始日 2017/03/10

書評

1cm以内の物語

夢眠ねむ

 夏になると新潮文庫にそわつく自分がいる。
 読書感想文をどの本で書こうか、と本屋を覗くのは夏休みの風物詩であった。
 あれも読みたいこれも読みたい、推薦図書は誰かと被っちゃうかなぁ、など悩むことが多い中で「新潮文庫の100冊」の棚にはかなりお世話になった。そこから更に1冊に絞り込むためウンウン唸って選んだ記憶がある。
 今でも「新潮文庫の100冊」のポップを見ると夏が来たなぁ~としみじみして、気付くと数冊抱えて帰る、そんな読書感想文のない夏も幾度となく過ごしている。
 私が文庫を買うとき、というのは「好きな単行本が満を持して文庫化されたので持ち運べる喜び」パターン、「タイトルと概要は知ってるけど未読なので読んでみよう文庫なら気軽だし」パターン、「今から旅行なんだけど空港や駅でつい本屋に寄ったら案の定読みたい本がある」パターンに分かれる。
 前者2つは厚みを気にせず買うのだが、最後の1つはそうはいかない。なぜ厚みを気にしているかというと、既に家から積読を数冊持ってきているのだ。この時点で重い。なんなら、たんまりダウンロードしてある電子書籍もある。それに、あまりにも長い作品を読み始めてしまうと途中で閉じられず、車窓から見える景色などそっちのけになってしまい、酷い時は二宮金次郎スタイルでも読みたくなってしまうほど集中してしまうので旅に向かない。
 ここで私は自分にルールを課す、旅先で買ってもいいのは「1cmまでの文庫」。
 今回は旅に連れて行った、1cm以内にぎゅっと詰まった文庫を紹介しようと思う。

 小川糸あつあつを召し上がれ』、7mm。

小川糸『あつあつを召し上がれ』

 短編が7編収録されている。私は食べ物関連の作品に目がないのだが、小川糸さんの作品に出てくる食べ物は温度まで伝わる。まさにタイトル通りにあつあつ。しゅうまいの描写に口の中はホフホフし、ポトフがじんわり沁みる。“美味しそう”を突き詰めた感覚である官能も感じられてドキリとする。私の人生の節々にも象徴的な食べ物があるが、こうしてチャプターごとに食べ物がある人生をおくれるのは幸せだ。たとえそれがしょっぱい失恋でも、苦い別れでも。

 吉本ばななキッチン』、7mm。

吉本ばなな『キッチン』

 私が紹介するまでもない、刊行から30年以上が経った今も愛され続ける作品。旅行というインスタントな孤独とこの作品の主人公が置かれている環境は全くもって比べ物にならないけれど、ここではないどこかへ引き離されて自分が浮き彫りになっている時に似合う。死と、生に、当たり前にしっかり向き合うこと。今日も自分でいること。キッチンは孤城であり、愛を育む舞台だ。
 読むたびに心に残る言葉があるけれど、今回読み返して響いたのは「人はみんな、自分の気持ちの面倒は自分でみて生きているものです」。

サン・テグジュペリ『星の王子さま』

 最後に、私が新潮文庫で何度も繰り返し買った本。サン=テグジュペリ『星の王子さま』。
 なんで何度も買う必要があるのかと思われるかもしれないが、私にとって星の王子さまこそ旅先で読みたい1冊だ。
 はじめて自分の計画で旅に出た時、肩から斜めがけするちょっと大げさなブックカバーに収めたのがそれだった。そこから私にとって旅に出る時に持って行く本となった。読みたくなるとその都度買う。持ち歩くし、プレゼントするし、なくす、となるとまた手元からなくなる。
 本当は1冊を丁寧に大事にすべきなのだけれど、なぜか星の王子さまだけは何度も買っている。今回も、星の王子さまは何mmかなと本棚を探したら見当たらなかった(そんなはずないのに!)。最寄りの本屋に行き、新潮文庫の棚を見る。必ずと言っていいほどちゃんとそこにある星の王子さまを購入し、測ってみるとちょうど1cmだった。

 小さいカバンに1cmの厚みを忍び込ませて今日も出かける。この夏はどこへ行こうか。

(ゆめみ・ねむ 書店店主・元でんぱ組.incメンバー)
波 2019年7月号より

インタビュー/対談/エッセイ

『星の王子さま』の不思議

河野万里子

Eちゃんへ
 Eちゃんが、『星の王子さま』を読もうとしたけど途中でやめちゃった話、きょうママから聞きました。「これどういう意味?」って聞いてばかりで、なかなか進まなかったんだって? ママも「あの本むずかしいのよ」って、ちょっと顔をしかめていました。わかるわかる。Eちゃんが読んだのと同じ七、八歳のころ、私も同じ思いをしたことがあります。
 でもあれは、不思議な本。自分が大きくなっていろいろな経験をするほど、「そうか!」とわかるところが増えていくの。お話の中に隠れていた鍵が、見つかるみたいに。そしてその鍵は、やはり大きくなるにつれて、わかりにくく複雑になっていく世界を解く鍵でもあり、自分の人生を開くことのできる鍵でもあるのかもしれない、と思います。
 私の場合は、最初の出会いから十年後ぐらいに、フランス語の原書で読んではじめて、こんな話だったのか、と胸を打たれました。とがった山のてっぺんで「ぼく、ひとりなんだ」と叫ぶ王子さま。草の上につっぷして泣く王子さま。そして、王子さまに会う一時間前からうれしくなるキツネ。それは、孤独を感じたり、恋にときめいたりしていた自分と同じだった。そうしてそのキツネが教えてくれる「いちばんたいせつなことは、目に見えない」という「秘密」は、そのころの私の〈ことばのお守り〉のようになった。
 そんな私もいつのまにか、この本を書いた当時のサン=テグジュペリより年上になっちゃったのだから、時がたつのはつくづく早いと感じます。でもそうしたら、「おとなってそんなものだ」という風刺に、思わず笑うようになっていたし、このお話が、傷つきやすい人間をどれほどやさしく毅然と支えてくれるか、わかるようにもなった。そして、花と王子さまの深い「絆」のせつなさや、王子さまがパイロットに贈った鈴のような笑い声の星々に、心を震わせられるようにもなった。愛というものはすれ違いやすく、死というものは人生のすぐとなりにあると、実感するようになったからだと思います(これも、おとなの話だけどね)。
 そのうえ時の流れは、今回この本を新しく翻訳する役目も、私に運んできたんです。作者のサン=テグジュペリは、印刷した原稿一枚につき、百枚は捨てていたほどだったというから、私も、彼がことばに託した思いを考えたり、評伝を調べたり。むかし私がつっかえたところはスムーズに読めるように、のちに大好きになったところや、このお話の不思議なすてきさは、いっそう深く伝わるように――そう心がけながら、日本語を綴りました。だから今度はEちゃんにも、「おもしろかったよ!」って、最後まで読んでもらえるといいなあと思います。
 そうしてそのあと、ゆっくり、静かに、ママにも読んでもらえたらと思っています。

(こうの・まりこ 翻訳家)
波 2006年4月号より

コラム 映画になった新潮文庫

原幹恵


 何年か前、仕事で海外へ行く時、飛行機の中で読もうと『星の王子さま』を手に持っていたら、隣席の外国人の方に「ナイス・ブック!」と親身な感じで声をかけられたことがあります。その時はなんだか恥ずかしくなって、別の本を読み始めてしまったので、今回初めてこの有名な作品を読むことができました。
 確かにこれは「ナイス・ブック!」です。文章も絵も魅力的で、素敵なエピソードやセリフが薄い一冊のあちらこちらにちりばめられていますが、一見やさしそうでも実は結構手ごわくて、ふと立ち止まって考え始めるとどんどん深くなったり、よくわからなくなったり。今の自分に強く訴えかけてくる箇所もあれば、「いつか読み返すと確実に響いてくるんだろうな」と思える部分もあって、こんなにさまざまな読み取り方ができる小説って、あまり出会ったことがありません。現在の私の目からは、自信がない時や迷っている時、背中を押してくれる本のように思えました。
 サハラ砂漠に不時着した飛行士が王子さまに出会います。王子さまはバラ(気が強く誇り高い女性のようなバラ)との関係に疲れて(?)、自分の小さな星から離れ、いくつかの星を訪れた後、七番目に地球へとやってきたのです。地球ではヘビやキツネと意味深な会話を交わし、そして飛行士と出会って、二人は友情のようなものを育むのですが、やがて別れの時が来て……。
 冒頭で、飛行士が子どもの頃に描いた絵のエピソードが出てきます。ゾウをまるごと呑み込んだ大蛇の絵を描いたのに、大人たちは帽子の絵としか見てくれず、およそ相手にしてくれない。自分の本当に大切なものがわかってもらえない、さみしさ。わかってくれる人がたった一人でもいてくれる歓び。この挿話は、キツネの「いちばんたいせつなことは、目に見えない」というセリフと繋がり、さらに王子のキツネへの「最初はほかの十万のキツネと同じ、ただのキツネだった(略)今ではこの世で一匹だけの、かけがえのないキツネなんだ」という思いにも繋がっていきます。
 キツネは、「きみのバラをかけがえのないものにしたのは、きみが、バラのために費やした時間だったんだ(略)絆を結んだものには、永遠に責任を持つんだ。きみは、きみのバラに、責任がある」とも言います。
 ここは仕事に置き換えて読みました。私は、わざわざ自分を選んでくれた仕事にはきちんと結果を出して恩返しをしたいし、むろん〈責任〉も感じます。舞台「趣味の部屋」で共演した白井晃さんが「このメンバーの中にあなたがいて、こんな舞台を作ったんだ、という経験はきちんと伝えていく義務があるんだよ」と教えて下さったのですが、その〈義務〉は、私の中でキツネのいう〈責任〉と重なります。
 この本、ミュージカル映画になっています(S・ドーネン監督 74年)。王子さまを演じた子役は幼くて、バラとは恋愛ぽくならないけれど、可愛らしい。キツネ役のコメディアン(ジーン・ワイルダー)は繊細かつ愉快だし、ヘビ役のボブ・フォッシーは、彼が振付をした「シカゴ」そのものの黒ずくめの衣装でスタイリッシュなダンスを見せて印象的。

 

(はら・みきえ 女優)
波 2015年12月号より

どういう本?

一行に出会う

いちばんたいせつなことは、目に見えない(本書108ぺージ)

著者プロフィール

(1900-1944)名門貴族の子弟としてフランス・リヨンに生れる。海軍兵学校の受験に失敗後、兵役で航空隊に入る。除隊後、航空会社の路線パイロットとなり、多くの冒険を経験。その後様々な形で飛びながら、1929年に処女作『南方郵便機』、以後『夜間飛行』(フェミナ賞)、『人間の土地』(アカデミー・フランセーズ賞)、『戦う操縦士』『星の王子さま』等を発表、行動主義文学の作家として活躍した。第2次大戦時、偵察機の搭乗員として困難な出撃を重ね、1944年コルシカ島の基地を発進したまま帰還せず。

河野万里子

コウノ・マリコ

1959年生れ。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。主な訳書にウィリアムズ『自閉症だったわたしへ』、サン=テグジュペリ『星の王子さま』、サガン『悲しみよこんにちは』、レヴィ『あたしのママ』など。

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