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戦後史の解放II 自主独立とは何か 前編―敗戦から日本国憲法制定まで―

細谷雄一/著

1,430円(税込)

発売日:2018/07/27

  • 書籍
  • 電子書籍あり

「国のかたち」を決めたのは誰か?

憲法制定と講和条約――米ソ対立が深まる中、戦後日本の新しい「国のかたち」を巡り、近衛文麿、幣原喜重郎、芦田均、吉田茂、白洲次郎らが、マッカーサー、ホイットニー、ケナン、ダレスらと激しい駆け引きを繰り広げる。世界史と日本史を融合させた視点から、日本と国際社会の「ずれ」の根源に迫る歴史シリーズ第二弾。

目次
はじめに
「上を向いて歩こう」 語られない歴史 東京オリンピックの夢 時代が動くとき 「戦後史の解放」とは何か 希望は可能か
序章 国際主義と愛国心
複数の「戦後史」 揺れ動く歴史認識 「対米従属」批判の陥穽 自主独立した日本 孤立主義から国際主義へ 「右であれ左であれ、わが祖国」 「愛国心」とは何か 「反米主義」という「ナショナリズム」 国際主義的な「愛国者」 「英、米両国民気質の比較」 「新しい曲学阿世」 悲劇と再生
第1章 崩れてゆく秩序
1 終幕を迎えた戦争
スイスに届いた電報 巨大な帝国の崩壊 終戦の多様な位相 崩れ落ちる正義
2 大日本帝国の崩壊
帝国の崩壊とその後 日ソ開戦へ ソ連軍の対日参戦準備 新京の動揺 満州国に居住する少年 皇帝溥儀の逃避行 満州国の消滅 高碕達之助の戦中と戦後 朝鮮半島における敗戦 米軍統治の開幕 忘れられた帝国臣民
3 アジアにおけるパワー・バランス
「力の真空」をめぐる政治力学 忘却される記憶 アジアのなかの日本 戦争と平和の間で
第2章 アメリカが創った秩序
1 「アメリカの海」へ
孤立主義からの訣別 逆説としての日米関係 パラオの碧い海 西太平洋の戦略的要衝
2 国家安全保障を求めて
島嶼の支配へ アメリカの国家安全保障 前方展開基地としての日本 制空権と航空戦力 「海防上の大変革」 日米の島嶼戦 戦後構想のなかの太平洋 「力の真空」を埋めるアメリカ
3 マッカーサーの平和
マッカーサーの到着 重光葵の覚悟 日本の降伏 マッカーサーの統治 連合国の諸大国の立場 ロンドン外相理事会 ソ連の交渉戦術 日本と東欧との「交換」 モスクワでの合意 アメリカが創る秩序
 
第3章 新しい「国のかたち」
1 衛兵の交代
「新しい日本」を求めて 二人の政治家 近衛文麿と幣原喜重郎 「外交に通暁せる者」 「国際信用」の回復を目指して 「正義の外交」の必要 東久邇宮内閣成立
2 近衛文麿の戦後
近衛文麿の憂鬱 マッカーサーとの会談 近衛の憲法改正への動き 近衛文麿の退場 最後のメモ 歴史の審判 無責任と弱さ
3 幣原喜重郎の戦後
「政治の組立から改めなければならぬ」 幣原喜重郎の再登場 幣原内閣と昭和天皇 天皇制維持への逆風 保守的な憲法問題調査委員会 戦争放棄条項の誕生
4 アメリカが創った憲法
GHQの動き 宮沢俊義の反米主義 松本委員会の「憲法改正要綱」 アメリカによるイニシアティブ 「戦争の放棄」誕生の背景 憲法九条と天皇制 GHQの対応 松本烝治の蹉跌 幣原の怒り ホイットニーからの提案 白洲次郎の矜恃 松本烝治の抵抗 混迷する閣議 芦田均の国際主義 「この外に行くべき途はない」 「大局的判断」と「国際感覚」 極東委員会と対日理事会の開催 「憲法改正草案要綱」の発表 痛みをともなった前進

書誌情報

読み仮名 センゴシノカイホウ2ジシュドクリツトハナニカゼンペンハイセンカラニホンコクケンポウセイテイマデ
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 288ページ
ISBN 978-4-10-603829-7
C-CODE 0331
ジャンル 日本史
定価 1,430円
電子書籍 価格 1,144円
電子書籍 配信開始日 2019/01/11

書評

「国際主義」に生きた日本人たち

篠田英朗

 鮮やかだ。こういう爽やかな政治史を書いてみたい、と素直に思う。
 国際的な視点から、日本史を見る。素朴だが、贅沢な要請だ。果たして本書より以前に、この要請を、これほど見事に満たしてくれた書物があったか。見事な労作である。
 本書は、細谷による「戦後史の解放」というシリーズの「二巻目」の「前編」と「後編」である。このシリーズの構成は、いささか複雑になってきている。戦前を扱った一巻から始まり、敗戦から憲法制定までの時代を扱った「二巻前編」をへて、三冊目の「二巻後編」で冷戦下のサンフランシスコ講和条約の時点にたどり着く。この複雑な構成は、しかし細谷が、斬新な歴史書を書いていることの証しでもある。
 細谷は、国際政治史を専門とする。その細谷が、なぜ日本政治史の著作シリーズを刊行しているのか? 答えは簡単である。細谷は、国際政治史家でなければ書けない日本政治史を、書いているのだ。
 このシリーズのテーマは明確だ。国際政治史の中で、日本政治史を描き出す、ということである。
 日本の歴史が国際社会の歴史の一部として存在していることは、自明だ。世界大戦の前後の時期となれば、特にそれが当てはまるはずだ。
 だが実際には、国際政治史の中の日本政治史を描き出すことは、容易ではない。数多くの人々が、日本国内の政治状況に引きずられてしまい、曇り眼鏡で国際社会を見てしまう誘惑に惑わされてきた。あるいは、日本の内情を看過して、平板な国際政治史を書く陥穽にはまりこんできた。
 しかし、細谷は、驚くべき程に広範な国際政治史に関する知識と、熱情に満ちた日本政治史への洞察とを、鮮やかに結合させる。そして見事なまでに美しい、国際政治史の中の日本政治史を、紡ぎだす。
 要領よく、バランス感覚を持ち、日本占領期や、冷戦勃発期の国際情勢を具体的に描写していく筆致は、さすがである。ただしそこでさらにこの労作を際立たせるのは、やはり細谷の人間への深い関心であろう。
 細谷の語り口は、いつもながらに滑らかだ。読者は、流れるように展開する五〇〇頁以上の「前編」「後編」を、一気に読了するだろう。しかしもちろん、その滑らかさは、細谷が何の苦労もなく本書を書き上げたことを、意味しない。「おわりに」で語られている執筆の苦労は、嘘ではないだろう。苦闘しながら、細谷は、何度も新潮社の宿泊施設に泊まったという。しかし細谷は、その「戦後史の世界に没頭する日」を「至福の時間」と振り返る。
「前編」の「はじめに」は、1941年生まれの坂本九のエピソードで始まり、「後編」の「おわりに」は、吉田茂、白洲次郎、近衛文麿の旧邸宅への訪問のエピソードで終わる。本書の中で、細谷の熱い眼差しは、さらに芦田均、幣原喜重郎らにも、向けられる。
 歴史の節目で、苦悶しながらも、国際社会の中で生きる日本を見つめ、決断してきた日本人たちを、細谷は、豊かな筆致で語り続ける。あたかも彼らが旧知の友人であるかのように優しく、語り続ける。そして「国際主義」に生きた日本人たちを通じて、細谷は、運命という大海の荒波に翻弄されながら、なお気概を持って生き抜いていこうとする日本人の姿を明らかにする。
 第二巻を通じて細谷が特に光をあてるのは、歴史の転換期に決定的な役割を演じた日本の「国際主義者」たちだ。たとえば「前編」では、ダイナミックに日本国憲法制定をめぐる人間模様を描き出している。「押しつけ憲法」論や「八月革命」論のような抽象的な物語にそって憲法を語っていくのではなく、日本の「国際主義者」たちの国際政治への洞察をふまえた判断の産物として憲法を語っていく手法は、圧巻だ。
「世界史」と「日本史」を分断して教える日本の学校教育の弊害は、「内向き」日本の国際的視野の欠如に、つながっている。細谷の「戦後史の解放」は、そんな視野の狭い歴史観にとらわれている日本人を、国際政治史の中の日本政治史へと、劇的なやり方で「解放」していく書物だ。

(しのだ・ひであき 東京外国語大学教授)
波 2018年8月号より

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著者プロフィール

細谷雄一

ホソヤ・ユウイチ

1971年、千葉県生まれ。慶應義塾大学法学部教授。立教大学法学部卒業。英国バーミンガム大学大学院国際関係学修士号取得。慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。博士(法学)。北海道大学専任講師などを経て、現職。主な著書に、『戦後国際秩序とイギリス外交』(サントリー学芸賞)、『倫理的な戦争』(読売・吉野作造賞)、『外交』、『国際秩序』、『安保論争』、『迷走するイギリス』、『戦後史の解放I 歴史認識とは何か』など。

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