とんぼの本 |
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クマグスの森―南方熊楠の見た宇宙―
紀州和歌山が生んだ植物学者、生物学者、民俗学者として、いまや広く知られる南方熊楠(1867-1941)。ナンポウグマのクスノキ、なんて読む方は、もはやいないでしょう。本書のカバーにも使用した、冬の山中、腰巻一丁で煙草をふかす「林中裸像」の写真も、どこかで見たことがあるのではないでしょうか。
粘菌を研究したひと。キノコの図譜を何千枚も描いたひと。神社合祀に反対して原生林を守ろうとしたひと。屈強な体躯に強靭な意志をあらわす太い眉をもったひと。猫語が話せたひと。ともかく破天荒だったひと。……熊楠にまつわる話は数多く、学問や研究よりも奇想天外な言動が注目されがちな面もありますが、たしかにそれもまた熊楠の魅力。本書は、そうした多面体のような熊楠像から、さらに一歩進んで、奇才熊楠が遺した膨大な資料を大公開、そこから複雑なる頭脳の森へ深く踏み込もう、というものです。
たとえば、前の晩に見た夢を書き付けた日記。余白に走り書きされた数字は、寝床の熊楠が今まさに眠りに落ちるぞ、という瞬間に、その正確な時間をさっと書いたものだそうです。また、ロンドン留学時代に大英博物館に通って世界の民俗・風習を筆写した「ロンドン抜書」。全52冊のノートには、刺青の文様から指紋のパターン、女性器の図までびっしり描かれています。
熊楠にとっての研究対象は、キノコ、粘菌、藻類、昆虫などの生命の世界から、夢、病、性、身体といった内的宇宙まで、まさに森羅万象でした。動植物も眠りのなかの夢も等しく、体を張って物件を収集し、自分の目で見たままを正確に記録しつづけていく。そういう方法を生涯かけて熊楠は貫き、物事の本質に迫ろうとしたといえます。
もちろん、アート作品のように美しい植物や菌類の図譜や粘菌の世界も満載。気鋭の学者が最新の研究に基づいて展開する、新たな熊楠論とともにお楽しみください。
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