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編集者のことば

巡礼高野山

 2003年の初冬、高野山金剛峯寺の正門「大門(だいもん)」の前にたっていた。高さ25.8メートル、国内最大級の木造二重門からは、冬の澄んだ空気の彼方に、運さえよければ、淡路島がくっきりと見えると聞いていたが、零度近い寒気のみがおしつつんでくれる。

 本書と同じ〈とんぼの本〉シリーズの一冊『空海の道』の、参詣道の一つ「高野山町石道(ちょういしみち)」を歩いておりる記事のためだった。この道はまた、女人禁制であるため高野山内に住むことができず、麓の慈尊院にくらす母親に会うために弘法大師空海が通った道でもあった。麓からの登りをえらばず、大門からの下りを選んだのには、そのようなわけがあった。『空海の道』のテーマは、空海の歩いた道をたどりながら空海さんに出会うこと。本書と同じ、高野山に生れ育ち、高野山をすみずみまで知り尽している永坂嘉光氏が、高野山を出て、日本各地に、その足跡を追い、はては空海が密教を相承した唐の都・長安まで、漂着の地・赤岸鎮から初めて完全踏破した15万キロの撮影の精華を収録したもの。
 今度、1990年7月に〈とんぼの本〉として刊行されていた『巡礼高野山』(永坂嘉光、日野西眞定、川又一英著)を全面的に改訂しようという企画が出た時、まっさきに思い出されたのが、あの初冬の空気だった。あの空気を読者の方々にグラフとして、お届けしたい。それが出発点となって、膨大な永坂氏の写真ライブラリーからの写真選びがはじまり、可能な限りの新撮影もお願いした。
 書き下ろしていただいた中上紀氏の「雪の高野にて」から引用させていただく。
〈誰もいない早朝の境内に、しんしんと雪だけが降り続いている。かじかむ手に息を吹きかけながら、大塔の横を通り抜け、不動堂の方へ向かった。不動堂は、高野山に現在残る最古の建物であるという。裏にある蓮池が凍っている。その氷の上にも、雪があとからあとから舞い降りていく。雪は、不動堂から伸びている蛇腹道の土道にも、容赦なく降り注ぐ。そこを、一心不乱に雪かきをしている老人がいるのに、私は気付いた。〉
 この老人に中上氏が見たものを、いささか押しつけがましく申し訳ないのですが、読者の方々に考えてみてもいただきたい、と編集を終えて切に思う。


雪にとざされ、静かな壇上伽藍のたたずまいは建立当時の厳しい冬をしのばせる
撮影=永坂嘉光


成福院 摩尼宝塔がふりしきる雪の中厳かな姿を見せていた
撮影=永坂嘉光

2008/11

[特別対談]中谷美紀×赤木明登
「つくること、演じること」
 中谷美紀+赤木明登
「波」2011年7月号より

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