松本清張傑作選 全六巻/新潮社版 自由自在に楽しむ。新たな魅力を発見する。人気作家・実力派学者6人が独自の視点で選ぶ“私のオリジナルセレクション”生誕100年特別アンソロジー 浅田次郎 海堂尊 原武史 佐藤優 宮部みゆき 桐野夏生
「巨人」と称されるその名声に、つい気圧されたのかもしれません。何と言っても生涯作品数およそ1000。どこから手をつければよいのやら……。いまだからこそ出来る、新しい読者に魅力を訴えられるようなアンソロジーにしたいと意気込みつつ、内心は少し不安でした。 ところが、いざとりかかってみればもう、引きずり込まれるように面白い。こんなにも鮮明に時代を描き、不幸で陰惨な事件を生み出した何物かの正体に目を凝らし、そして人間への深い共感を湛えた作品が、それこそ汲めども尽きぬ泉のごとくあるのです。 当代を代表する人気作家・実力派学者6人を編者にお迎えしたこの「松本清張傑作選」は、6通りそれぞれ違った清張の顔に迫ります。その意外性に驚くもよし。編者と清張、二人の間に生じる“化学反応”を楽しむもよし。松本清張の作品には、どんな自由自在な楽しみ方でも受け入れてしまう、とてつもない奥行きの深さがあることを確信しています。 いつか読もうと思いながら、きっかけをつかめずに来てしまった――。この企画がそんな読者に格好の道案内となれば、これほど嬉しいことはありません。(編集部)

浅田次郎オリジナルセレクション 松本清張傑作選 悪党たちの懺悔録

浅田次郎VS.松本清張
明治維新という国家規模の逆転劇は、日本人は何を信じ、何を求めて生きるのかを問う新たな出発点になりました。青年たちが人生を賭けて追いはじめた名誉、富、そして権力。それは彼らの心を激しく揺さぶり、時に狂わせもしたでしょう。残酷な結果に直面し、涙を呑むこともあったでしょう。
負け組を切り捨てるサラリーマン社会、不正を隠す官僚組織、スキャンダルまみれの学者たちといった様々な「悪」の正体を、松本清張は鋭い視線で見据えます。ただし、どんなに汚れた“ワル”を描いていても、読む者の胸を打つのが不思議です。あるいは無惨な敗者の姿であっても、心を鷲づかみにされるのです。
それは清張が、人の心の最奥部から聞こえてくる、ほんの微かな声をこそ捉えようとしていたからなのではないでしょうか。維新から戦前戦後の混乱期、朝鮮戦争など昭和中期まで、様々な時代相を背景にした濃密な人間ドラマを浅田次郎氏が選びました。
2009年4月30日発売/ISBN:978-4-10-320432-9/1,680円  書籍詳細を見る
浅田次郎
こうして清張さんの作品を読み返してみると、なにやらどこかの街角ですれちがいざまに、大切なことを囁かれたような気がする。――人間さえ書き切ればいいんだよ。そんな一言であろうか。
[収録作]啾々吟 カルネアデスの舟板 ある小官僚の抹殺 黒地の絵 空白の意匠 大臣の恋 駅路

海堂尊オリジナルセレクション 松本清張傑作選 暗闇に嗤うドクター

海堂尊VS.松本清張
ふとしたきっかけから悪に魅入られ、専門知識を駆使して巧妙な犯罪までやってのける。清張の作品には、そんな冷酷非情な医師がしばしば登場します。人の心や命を救う手段であるはずが、人の心を狂わせ殺人にまで走らせた――こうした医学・医療の根源的な聖性と魔性に、清張ほど目を凝らした作家はいなかったのではないでしょうか。
「医学の非人道性が前面に出れば犯罪小説になり、医療の人道的側面が前面に出れば医療小説の体を成す」と海堂尊氏は指摘します(本巻解説「『医療小説』はこころの深淵に根ざしている」より)。記録的ベストセラー『チーム・バチスタの栄光』を始め、数々のヒット作で医療をとりまく複雑な現実を描き続けている海堂氏だからこそ、清張の問題意識の重大さに強く共感したと言えるでしょう。戦時中の生体実験、ニセ医者、あるいは刑法三十九条問題といったジャーナリスティックなテーマを、時にはSF的な仕掛けも駆使して知的刺激たっぷりに描く清張の真骨頂をお楽しみください。
2009年4月30日発売/ISBN:978-4-10-320433-6/1,680円 購入  書籍詳細を見る
海堂尊
「医学」は、時に人を殺す。「医療」は「医学を用いた治療行為」だ。清張はこの二面性を巧みに使いこなし、心の闇や、社会の葛藤を鮮やかに描き出す。
[収録作]死者の網膜犯人像 皿倉学説 誤差 草 繁昌するメス 偽狂人の犯罪

原武史オリジナルセレクション 松本清張傑作選 時刻表を殺意が走る

原武史VS.松本清張
「点と線」の連載が「旅」誌上で始まったのは昭和32年(1957年)。作中で重要な役割を果たす夜行寝台列車《あさかぜ》は、戦後初めて東京と九州を結ぶ特急として、この前年に登場しました。時はまさしく高度経済成長期のとば口。激変する日本の姿を写すように、清張は鉄道という素材を生かし切り、世相を縦横無尽に描いたのでした。無類の鉄道ファンとしても知られる気鋭の政治学者・原武史氏が昭和のダイナミズムに迫ります。
2009年5月29日発売/ISBN:978-4-10-320434-3/1,785円 購入  書籍詳細を見る
原武史
東京駅横須賀線ホームの「4分間の空白」に着目した『点と線』。「カメダ」が羽越本線と木次線にあることを発見した『砂の器』。東武線が事件の鍵を握る場所を通る『神々の乱心』。清張の推理小説に、鉄道は欠かせない。
[収録作]点と線 顔 万葉翡翠 たづたづし 拐帯行

佐藤優オリジナルセレクション 松本清張傑作選 黒い手帖からのサイン

佐藤優VS.松本清張
「点と線」「眼の壁」を発表した頃、新進気鋭の清張が記した創作ノート集『黒い手帖』をご存じでしょうか? インテリジェンスの世界であらゆるタイプの交渉相手と接してきた佐藤優氏は、このノートの中に人間を理解し、対人関係を作り上げてゆく方法論が詰め込まれていると看破します。本巻はいずれも『黒い手帖』に登場する重要作。「清張は何を手掛かりに人間に迫ったか」を綿密に分析する佐藤氏の解説にもご期待ください。
2009年6月30日発売/ISBN:978-4-10-320435-0/1,680円  書籍詳細を見る
佐藤優
松本清張氏は卓越したインテリジェンス感覚をもっていたことを浮き彫りにしたい。日本人のインテリジェンス能力を強化するというちょっと変わった切り口から読解をしたい。
[収録作]共犯者 殺意 捜査圏外の条件 声 腹中の敵 群疑 山師 点 張込み

宮部みゆきオリジナルセレクション 松本清張傑作選 戦い続けた男の素顔

宮部みゆきVS.松本清張
「社会派」「告発者」――つまりはコワモテとして語られがちなこの作家を、これまでなんとなく敬遠してきたという方もいらっしゃるはず。そんな方に、ぜひお薦めしたいのが本巻です。肉親への愛憎、“生まれ”に人生を左右される哀しみ……「人間・松本清張」の繊細な素顔が覗く佳作を、宮部みゆき氏がセレクトしました。「砂の器」や「眼の壁」といった代表的長篇を楽しんできた読者にも、きっと新しい発見があるはずです。
2009年7月31日発売/ISBN:978-4-10-320436-7/1,680円  書籍詳細を見る
宮部みゆき
私が担当するこの巻は、社会派推理小説の巨人・松本清張の世界のなかで、意外に私小説的な趣きを持つ作品を集めた巻になります。が、やはり清張さんのこと。一筋縄ではいきません。どうぞお楽しみに!
[収録作]月 恩誼の紐 入江の記憶 夜が怕い 田舎医師 父系の指 流れの中に 暗線 ひとり旅 絵はがきの少女 河西電気出張所 泥炭地

桐野夏生オリジナルセレクション 松本清張傑作選 憑かれし者ども

桐野夏生VS.松本清張
生涯をかけて人間の「動機」を解き明かそうとした松本清張は、同時に「人間の不可思議さ」に対する真摯な“畏れ”を、決して忘れなかった作家だとも言えるでしょう。人が人を裏切る瞬間、破滅への道を止めようもなく歩み出す姿、傍目には不可解な行動原理に縛られる謎……。桐野夏生氏の選ぶ、結末を知ってもなお私たちの心にザラリとした感触を残す異色作は、一度お読みいただけば決して忘れられない濃密な存在感を放っています。
2009年8月27日発売/ISBN:978-4-10-320437-4/1,680円 購入  書籍詳細を見る
桐野夏生
松本清張は、直感の作家である。彼は、魔物に取り憑かれた人物を好んで描いた。魔物とは、あらゆる人間の心の中にある、他人には聞かれたくない呟きである。清張は、その微かな呟きを、誰よりも先に聞いたのだ。
[収録作]発作 鬼畜 馬を売る女 密宗律仙教 赤いくじ