源氏物語はなぜかくも人々を惹きつけるのか?
現代の人気作家九人が新たに織りなす、もうひとつの源氏物語『ナイン・ストーリーズ・オブ・ゲンジ』異国の男相手の店から幼い少女が抜け出そうとする角田光代流若紫。真実の愛を求める源氏がベニーちゃんにとまどう末摘花by町田康。尼となった女三の宮がみずからの生涯を昔語りする桐野夏生の柏木――ほかに松浦理英子の帚木、江國香織の夕顔、金原ひとみの葵、島田雅彦の須磨、日和聡子の蛍、小池昌代の浮舟、の九篇。
2008年10月31日発売/ISBN:978-4-10-380851-0/1,470円

晴れ間の見えない五月雨の頃、帝の御物忌みが続いて、源氏の君も随分長い間宮中にお籠もりになり、その間には頭の中将やら左の馬の頭やらといった朋輩と女性談義に興じ、女は中の品の者が個性がはっきりしていて面白いだの……


おもてに出て選ばれる権利を有するのは十五歳からで、だから彼女はあと五年、客の前に立つことはできない。それでもやるべきことはたくさんある。おねえさまがたに飲みものを渡したり店内の清掃をしたり、おねえさまがたの衣装を洗濯したりアイロンをかけたり……


妊娠も中期に入ったというのにいつまで経っても慣れない光の態度に、ガキっぽさを感じて嫌になる。私は、自分が子を孕み強制的に変化せざるを得ない状況に置かれているのに、彼はいつまでも自分のスタンスを崩そうとしない……


うっすらとではあるが、ほそくすらりとしたお姿で横になっておられる姫君の御容姿の美しかったのを、宮は飽かず胸に思われ、いかにも源氏の大臣の思惑どおりに、お心に深く沁みたのだった。


舟は棺のように見えます。舟はゆりかごのようでもあります。そして舟は、女の子宮のかたちに似ています。見詰めていると、舟は燃えながら、静かに舳先から、物語を語り始めました。


女にしてみれば、けれどそれはどちらでもいいことだった。あとは余生、と思い定めて暮しているのだ。私の心はちっぽけだからというのが彼女の言い分だった。私の心はちっぽけだから、心に抱く男性は一人で十分。


初めて明るいところで見る女の姿形。どうだろうか。「お? 意外にええやんけ。かいらしやんけ」みたいなところがあ、ははは、きっとあるに違いない。そういうところを私はこの雪の朝にハッケンしたいのだけれども……


過去や未来のことを考えても、思い浮かぶのは悲しいことばかり。鬱陶しい世間からいざ離れようとしても、捨てがたいものだらけだ。日を追うごとに妻は嘆きを増すので、気の毒で見ていられない……


私が六条院様に降嫁したのは、ちょうど今頃、二月十日過ぎでございましたね。あれは、父の朱雀院様が、ご自分のご気力、ご体力ともに衰えをお感じになり、出家を期されたのがきっかけでございます……

(本文より引用)
