発売中
420円
購入

発売中
420円
購入

発売中
420円
購入

発売中
420円
購入

発売中
420円
購入

発売中
420円
購入

発売中
420円
購入















 『潮騒』は、体育会系純情ラブ・ストーリー

『潮騒』が奏でるのは、輝かしい青春賛歌。まず、ここから三島文学へ船出してみよう。
 新治という、学校の勉強はからきし駄目だったが、逞しい肉体と健全な精神を持った漁師の青年がいる。そして、村で有数の金持ちだが、海女の仕事もする初江という美しい娘がいる。 このまだ未成年の二人が、いろいろな試練を乗り越え婚約に漕ぎつけるまでのラブ・ストーリー。『潮騒』のさわやかさは、何といっても主人公・新治のキャラ。笑顔がすばらしい。どんなに辛いことがあっても、涙をこぼさない。初江と引き裂かれても、嵐の海に命懸けで飛び込む時でも、笑うことのできる男だ。
 近代小説でのさばってきた、ヤワで病弱な男たちとはハートの出来がちがう。ちょっとしたことで傷つき、ジョークのように「死んでやる」と叫ぶ不健全男の何と多いことか! ましてや、酒場でへべれけに酔ってオダをあげたり、変な女につかまって堕落するような近代知識人なんかとは、くらべるまでもない。
 だから、新治に憧れる男性読者は、読書中も歯を食いしばって涙をこらえよう。いや、初江も泣いていないから、女性読者も泣いてはならない。読者をなかなか泣かせてくれない、そこがまたたまらないんだよねえ。
 新治の母親と初江が海女としての誇りをかけて鮑取り競争をして、勝った初江が賞品を新治の母親にプレゼントする感動的な場面。ここで、グッときたままで持ちこたえられた読者は、三島文学の最初の関門を通過している!
 三島が生涯に渡って愛した海へ、航海ははじまったばかりだ。

 短編集『真夏の死』はほろ苦い人生の味

 最初の停泊地は、『真夏の死』という自選短編集はどうだろうか。
 最後にそっと置かれている『雨のなかの噴水』が特にオススメ。そこには『潮騒』のさわやかな少年少女の姿はもう見られない。男らしい王様のように、雄々しく少女を捨てようとする少年。少年に捨てられて泣いていた少女が、ふと強い女へと変貌する瞬間。立場が逆転して、弱者に転落する少年。「女性の圧倒的な強さの前にたじろぐ男性」……このテーマは、これから何度も三島の作品にあらわれてくる。
『サーカス』と『翼』も、三島らしい短編だ。男たちは、パラダイスを追放され、とぼとぼと地上をさすらう。彼らの人生に、最初から勝ち目はない。けれども、底なし沼のように果てしのない海を、昂然と胸を張って航海せねばならない。
 男は、美しく、そして劇的に滅びなければならないのだ。できれば自力で、それができなければ他人の力添えで、人生の最後の瞬間を完結しなくてはならない。
 一方、強いはずの女だって、決してラクなわけじゃない。
『真夏の死』を読んでみればいい。平和で幸福な暮らしをしている朝子という女性の心の中の「渇き」に、ハッとするはずだ。朝子は、何かを呪い、何か恐ろしいカタストロフィーを待ちつづけている。
 あなたは、「男がいつか必ず直面する人生の壁」の方に興味を持つだろうか。それとも「女も苦しいんだ」という方に共感するだろうか。前者なら『仮面の告白』へ、そして、後者なら『愛の渇き』や『美徳のよろめき』へと読み進めるといい。
 しかしその前に、ちょっと寄り道しておきたい、だいじな港がある。「男の壁」という要素を薄めて一般性を高めることで、「人間の壁(青春の壁)」を描ききった名作『金閣寺』である。