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ひざまずいて足をおなめ──大文豪は「悪女」にこだわる
谷崎は、「足フェチ」だった。すなわち、女体の「足」の部分に異常なまでに目と心が吸い寄せられ、執着してしまうのだ。そして、女王様タイプの女性に「その足でもっと私を踏みつけて下さい」と叫ぶ「マゾ」的素質が、そこかしこに顔をのぞかせている。どの小説も、「奥深い性の世界」のオン・パレード。
しかも、登場する女性たちが、そろいもそろって「悪女」。それがまた、「美貌」だったり、「名器」だったり、「奔放」だったり。男として生まれたからには、一度くらいこんな「いい女」と火遊びをしてみたいものだ、という破滅願望(マゾ性格)がムクムク頭をもたげてくるはずだ。一方で、女として生まれたからには、女の魅力で男たちを屈服させたい、という破壊願望(サド性格)に目覚めてしまうに違いない。
男を破滅させればさせるほど「いい女」になる
『刺青』は悪女への片道切符
谷崎二十四歳の出世作が、『刺青』。刺青とは、入れ墨、すなわちタトゥーのこと。ある娘の足の見事さに惚れて、希代の「悪女」「妖婦」「淫婦」となりうる素質を見抜いた天才的な刺青師が、彼女の背中に女郎蜘蛛を彫りつける。この巨大なタトゥーが入ったことで、女の心の奥底に潜んでいた「毒婦」が浮上してくるのだ。彼女はあざやかに変貌する。男たちを踏みつけ、破滅させ、その死骸を肥やしとして自分の美を輝かせる妖婦へと。そして、最初に魂を抜かれた犠牲者第一号が、刺青師なのだ!
同じ短編集に入っている『少年』は、倒錯した少年少女の心理をあやしく描いている。ここには、教育学者が口にするような「純朴な少年」像はない。少女もまた、「毒婦」たりうるのだ。学校では弱虫の「いじめられっ子」だが、帰宅すると内弁慶になり、姉に暴力を振るうマゾ少年がいる。そこに、「私」が加わって、「三つどもえ」の「サド・マゾ・ゲーム」を繰り広げる。三人とも、「いじめる快感」と「いじめられる快感」の両方をたっぷりと味わう。そのうえで、一人の女王様が二人の奴隷を従える構図として帰着する。
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