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【インタビュー】 「誰にも知られたくない感情を書きました」  朝井リョウ

――新作『何者』は社会人になって初めての執筆になりましたが、この小説の構想はずっとあったのですか。

朝井 「就活小説」というよりは、「就活をしている人達」を書いてみたいとは思っていました。私も経験したあの期間はやはり、自分を含め周囲の人がちょっと歪んだように思いました。「自分はこれまでこう生きてきました、そしてこれからはこう生きていきます!」ということを高らかに宣言し続けなければいけない期間、なんですよね。就活に使うツールも今までとはがらりと変わり、これまで世に出ているいわゆる「就活もの」とは全く違うものが書けるかも、という期待も、もともとありました。

――「就活」を題材にして、実際の体験も盛りこまれていますが、書きたかったことは、むしろそれ自体ではない、という内容です。

朝井 もともと「これを書きたい!」というシーンが三つあり、その三つが最も際立つ舞台として「就活」が選ばれた、という感じです。題材は「就活」ですが、本当に書きたかったことは、就活によってあぶり出されてくる様々な毒のようなものです。その毒のようなものを書ききることで、人が生きていくために必要なこと、その根底にあるものを抽出することができればいいなと思っていました。そういう意味では、結果、これまでの就活小説とは全く違うものになったという自信があります。

――朝井さんご自身の就職活動体験、会社での研修期間を終えての現在は、どんな日々でしょうか。実際に就職してみて味わったことも大きかったのではないでしょうか。

朝井 会社員をしながら作家の仕事もするというのは、ただただ時間との戦いですね。精神的というよりも単純に肉体的な問題というか……「実社会を味わう」という余裕もなかなかないというのが現状です。

――同世代の表現者で、注目している人はいますか?

朝井 同世代というより、やはり同じ二〇一〇年デビューの方々でしょうか。絶対に負けたくないです。

――作家として、一番大切なことは何だと考えていますか。

朝井 駄作でもいいから書く、ということ。書かないよりは書いたほうがいい、ということ。「これはまだ形にならないから」「こういうものを書くのは早いかな」――そんなことは一切考えずに、頭の中からどんどん出していかないと、と常に思っています。

――大学時代に精力的に執筆していらしたように、今後にも期待しています。執筆の予定を教えてください。

朝井 いま、集英社の「小説すばる」で「世界地図の下書き」という長編を連載しています。他に、一二〇枚くらいの中編を三編考えていて、ひとつめのものをいま書き始めているので、来春にはどこかの媒体で発表できると思います。『何者』関連では高校生の光太郎を主人公にした「水曜日の南階段はきれい」という短編がすでにあるので、それぞれの登場人物のスピンアウトを集めたような本ができればいいなとも思っています。

――本書を読者に手渡すときに、伝えたいことをどうぞ。

朝井 今回は、就活だったりSNSだったり、一日単位で変わっていくようなものを書いたということもあり、年代の違う方にどう受け止められるのか、ということがすごく気になっています。いままで書いてきた高校生もののような青春小説にはどの世代にも通ずるものがあるということはこれまでの経験で分かったのですが、今回のような「青春」ということではくくれない限定的なものに関してはどうなんでしょう……気になります。最後の三〇ページは、本当に、自分が一番知られたくない感情をすべて書きました。だけど、ここを書いているとき、作家になってほんとうによかったと思えたんです。
 手に取って本を開いていただきたいです。声を嗄らしてでも言いたかったことをぎゅうぎゅうに詰め込んでいます。よろしくお願いします。

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