ボクシングという競技に普段馴染みのない方は、ボクシングにどんなイメージをお持ちでしょう。『あしたのジョー』をはじめ、最近では亀田3兄弟や“かつらボクサー”などが話題になりました。
私にとって、ボクシングと聞いてすぐに思い浮かぶのは、沢木耕太郎さんの『
一瞬の夏』です。
類まれな才能を持ちつつも、温和な性格のため相手を打ちのめしてまで勝つことができないボクサー・カシアス内藤。消化不良で中途半端な試合ばかりを繰り返していた彼が、ある日再起をかけて立ち上がります。夢にまでみた世界チャンピオンになるため、過去に敗れた相手に落とし前をつけるため、そして、己が燃えつきるために……。
この本より以前沢木さんは、人間には3つのタイプがあるといっています。燃えつきることができる人間、そうでない人間、いつか燃えつきたいと願っているだけの人間、と。『一瞬の夏』は、燃えつきる“いつか”を目指した、沢木さんとカシアス内藤のノンフィクションです。
読後何年経っても、ふとした瞬間に沢木さんの言葉を思い出します。その度に、自分にとっての“その瞬間”を「いつか、いつか」と言い聞かせたり、「私にいつかはあるのだろうか」と自問自答しています。
例えば、ワールドカップ終了後の中田英寿選手の突然の引退に驚かされたのは、まだ彼が燃えつきていないように見えたからではないでしょうか。私たちからみて、燃えつきることができる可能性のある人間が、燃えつきる前に自ら第一線を退いてしまう。その姿に、もどかしさやるせなさを感じたのかもしれません。
まるで小説のように、様々な困難が立ちはだかりながらも少しずつ前進していく彼らの“闘い”にぐっと惹き込まれます。きっといつか燃えつきて真っ白になる。そんないつかを目指したカシアス内藤と沢木さんですが……。果たして燃えつきることができるのか、結末は読んでのお楽しみと致しましょう。
「yom yom」vol.2では、沢木さんの短編小説をお届け致します。これまでの沢木さんの作品とは、ガラッと趣の変わった物語です。新たな沢木ワールドを、どうぞご堪能下さい。
「yom yom」編集部(M・T)