ホーム > 雑誌 > yomyom > おススメの一冊 > 大平健『診療室にきた赤ずきん』

yom yom ヨムヨム yom yom ヨムヨム
じっくりヨムヨム、ぱらぱらヨムヨム、晴れの日も雨の日も、楽しくヨムヨム

 >> What is「yom yom」?

最新号目次 yom yom便り おススメの一冊 yom yomの作家たち 壁紙プレゼント バックナンバー


yom yom ヨムヨム 23号 特別定価:780円(743円)

大平健『診療室にきた赤ずきん』

書籍詳細を見る
 作家の遠藤周作さんは、人生には目には見えない大きな力が働いている、ということをおっしゃっています。『女の一生』(新潮文庫)を書かれていた時、冒頭部が決まらず頭を悩ませていた遠藤さんにひとつの偶然が訪れます。取材で訪れた長崎の教会で、紐で綴じられた大判の本を見つけました。それには、小説の細部の描写を描くために必要な細かな史実が記録されていたのです。「応接室の机の引き出しにたまたま置かれていた」という偶然ですが、自分には見えない力が導いてくれた“必然の偶然”だったと後に話されています。

 子どもの頃に観た一本の映画で将来の職業を決めたり、図書館でふと手に取った本に人生を変えるほどの衝撃を受けたり、雨宿りしていた軒先で知り合った人と生涯を共にしたり(ちょっと例が古臭いですか…)、思ってもいなかった偶然が、いつの間にか私たちの人生に道筋を作ってくれることもある、そんな気がしませんか?

 私にとって大平健さんの『診療室にきた赤ずきん』は、その偶然のひとつと言えます。精神科医の大平先生はyom yomでも倉田真由美さんとの連載対談をして頂いているので、読者のみなさまにはお馴染みだと思います。この本を初めて読んだのは高校3年生でした。表紙の絵柄と不思議な題名に惹かれて何となく読み出したのですが、「赤ずきん」や「うらしまたろう」「3びきのこぶた」など誰もが知っている物語の主人公たちと患者の状況が一致していく過程は無条件に面白く、大平先生独自の「物語療法」という珍しい治療法を知り、精神科に対するイメージがガラッと変わった覚えがあります。
数年後、就職活動がうまく行かずに落ち込んでいた時期に、ボーっと眺めていた本棚からふと手に取り読み返したのが二度目の出逢いでした。この時は「物語療法」の珍しさよりも、物語には人を元気づけるパワーがあるということに、大きな感動が湧きました。なんとか出版社に入りたいと決意を新たにできたのも、この本のおかげと言えます。もしあの時読み返していなかったら……出版社への就職は諦めてしまっていたかもしれません。遠藤さんのおっしゃる、見えない大きな力を初めて実感できた出来事でした。

 私の「偶然の出来事」はともかく、大平先生が実践されている、まるで、ミステリー小説で犯人を探し出す探偵のように患者の悩みを解き明かす過程にドキドキし、するどい観察眼とは裏腹な温かな大平先生の人柄には思わず頬が緩んでしまうでしょう。きっとあなたも自分にあてはまる物語を探してみたくなるはずです。むかしむかしあるところに……。

「yom yom」編集部(M・T)

2007年04月17日
Trackback


ページの先頭へ戻る