仕事上、読まねばならない本というのもあるにはありますが、好きな本を仕事で読めるのは幸せなことだと常日頃思っています。しかも好きな作家の本となれば、何をおいても読みたくなるもの。私にとって、そんな“猫まっしぐら”状態で読みたい作家が何人かいるのですが、中でも小野不由美さんはお薦めのおひとりです。
最初に読んだのは『
東亰異聞』。日本ファンタジーノベル大賞に応募され、惜しくも受賞は逃しましたが(応募原稿にしては手練れ過ぎるという意見があった)、単行本化された作品です。帝都・東亰(東京にあらず)が誕生して29年、夜道に闇御前なる辻斬りが現れ、人魂売りやら首遣いといった妖しげなもの達が出没。新聞記者の平河がことの真相を探るうちに、公爵家のお家騒動に行き当たり、さらに魑魅魍魎たちが立ち上ってくる、という怪しげな匂いを漂わせるホラー・ミステリなのですが、濃厚な空気感が全編にみなぎり、いっぺんで虜になってしまいました。何度読んでもぞくぞくするし、感動もする。なぜこれほどまでに惹きつけられるのかと思うのですが、ひとつには、文章のリズムがものすごく心地よく、自分の身体の中にある何かと見事に共鳴している──そんな感覚を抱くことの出来る小説はなかなかないので、これはちょっとした感動でした。
遅ればせに小野作品を読んでみようとまず手を伸ばしたのが『
魔性の子』。子どもの頃に神隠しに会い、人と馴染めない高校生・高里は、彼をいじめると〈祟られる〉という噂がある。実際に、彼に関わった人たちは怪我をしたり、事故に遭ったりしており、それが次第にエスカレートしていく。そして彼の周りに現れるなぞの白い手とはいったい……と、学園を舞台にしたこちらもちょっと不思議な世界観があるのですが、さて、この作品を読んでしまったことが運の尽き?!。
実はこの作品、〈十二国記〉シリーズという壮大な異世界ファンタジーの番外編だったんですね。そこで、『月の影 影の海』にはじまるシリーズ(講談社文庫で現在全7作品9冊。未だ完結していません)にどっぷり足を踏み入れたのですが、これがもう凄い! 古代中国に材をとった架空の世界にある十二の国が舞台で、ここには天命によって王を任命する神獣麒麟がおり、その麒麟によって選ばれた王が国を統治している。シリーズはそれぞれの国で、国を治める者たちの意志や苦悩、暮らす民たちの諦観や希望などあらゆるテーマを内包しているのですが、綿密に作られた世界で繰り広げられる人間ドラマは濃厚で迫力があって、かつ人情味にも溢れ胸を熱くしてくれます。難しそうな世界では?などと思わず、とにかく手にとって読みはじめれば必ずハマルはずです。
このシリーズが終わったら、次は『
屍鬼』、文庫本で全5冊の長編をぜひ。ネタばれになってしまうので詳しくは書きにくいのですが、こちらの人間ドラマもさらに濃厚です。ある小さな集落で起きる謎の連続死から浮かんでくる事実。謎が明らかになったところから始まる住民たちの戦いや逡巡。愛する人や家族が変容してしまった時に、人は本性を露わにするという残酷な面も描かれていますが、この長い物語を読み終えたあとのカタルシスは、想像を越えたものがあると思います。
さて、小野さんの作品は、最近なかなか新作が出ず、やきもきしながら待っていたファンも多いと思うのですが、実は2月27日発売の「yom yom」6号に〈十二国記〉シリーズの新作が掲載されます。この作品から始めて全然大丈夫ですので、この機会にお読みいただき、ぜひ〈小野ワールド〉に足を踏み入れてみて下さい。
ちなみに新作のタイトルは「丕緒(ひしょ)の鳥」。
慶国のお話です。
「yom yom」編集部(木村由花)