毎日本当に暑いですが、いかがお過ごしですか? 冷房の効きが悪い編集部に導入された扇風機の羽音を聞いていると、子ども時代を懐かしく思い出します。忘れもしない15年前の8月6日、ラジオ体操から帰り、畳の上でポケーッと過ごしていた居間で、広島の平和記念式典をテレビで観ていた祖母が涙を流していました。広島出身ではないとはいえ、戦争を経験した祖母としては、色んな想いが巡ったのでしょう。普段明るく朗らかな人だっただけに、小学生の私にとってその姿は異様で怖く、今でも心に焼きついています。
投下後すぐの原爆は、太陽の二倍の熱を放ち広島の街を包みました。ぶわっと膨らんだキノコ雲。何もかも一瞬で消え飛んで荒野となった街。無数の死体。熱でひしゃげた弁当箱。映像や写真で見る原爆は痛烈ですがどこか遠い世界の出来事のようで、それらよりも私に強烈に響いたのは、去年映画化もされた漫画で、こうの史代さんの名著『夕凪の街 桜の国』です。原爆で生き残った(はずの)主人公の皆実は、被爆の十年後にまっくろな血を吐いて亡くなります。
――嬉しい? 十年経ったけど 原爆を落とした人はわたしを見て 「やった! またひとり殺せた」 とちゃんと思うてくれとる?
死の間際彼女が放った言葉です。原爆を落とされたことは、「死んでもいい人間」と誰かに思われたことなのに、自分は「生き延びてしまった」――肉体的な苦痛よりも、〈生きていること〉が彼女を苦しめたのでした。その苦しみは、「生き延びた」家族のその後にも、暗い影を落とします。
新潮文庫にも井伏鱒二の『
黒い雨』、原民喜『
夏の花・心願の国』など原爆を描いた作品がいくつかあります。また、戦争の悲惨さを長きに渡り伝え続けているといえば、作家の井上ひさしさんもその一人で、氏が率いている劇団、こまつ座の傑作に『
父と暮せば』があります。原爆で「一人だけ生き残ってしまった」ことへの罪悪感から幸せを願うことができない娘を励まそうと、亡くなったはずの父親が目の前に現れる、父と娘の二人芝居です。「むずかしいことをやさしく」と常々おっしゃっている井上さんらしく、広島弁の軽やかな会話で、悲しいことをコミカルに、重いテーマをテンポ良く、暗い過去から明るい未来へ、とお話が展開されます。
「そいじゃけえ、おまいはわしによって生かされとる」
自分たちのようなむごい別れが何万もあったことを生きて伝えて欲しいと、終盤、父が娘を諭す台詞です。なんと切なくてなんと前向きな言葉でしょう。ちなみに、宮沢りえと原田芳雄主演で映画化もされていますので、そちらもご覧下さい。
また、こまつ座では、今日から31日まで『闇に咲く花』を上演しています。これは、戦後の混乱期を無我夢中で明るく生きる人びとのお話です。まだ残席もあるようですので、この夏、足を運んでみてはいかがでしょうか。
「yom yom」編集部(M・T)