年の初めに、今年やるべきことをいくつか考えました。「源氏物語」千年紀を(個人的に)祝うべく、
田辺聖子さんの「源氏物語」講演CD9巻を全部聴くこともその一つだったのですが、田辺さんの柔らかな口調で流れるように語られる「源氏物語」の世界に、巻数を重ねるごとに惹きこまれ、楽しく聴き終えることができました。
以前この項でもご紹介しましたが、田辺さんは『
新源氏物語』と『
新源氏物語 霧ふかき宇治の恋』の二冊の「源氏」を著しています。これは、紫式部の「源氏物語」を忠実に現代語訳したものではなく、独自の解釈を加えられた“田辺版小説「源氏物語」”です。一方CDの「源氏物語」講演は、一帖「桐壺」から「宇治十帖」まで、本家の流れに沿って、壮大な源氏の世界が細やかに語られます。1997年から3年に渡り多くの聴衆を集め開催されたこの講演は、計36時間を超える“大聴編”の物語となりました。
講演は毎回、「みなさまこんにちは」で始まり(1月だけは「みなさま明けましておめでとうございます」)、「わたくし夏休みに石垣島に行ってきましたの」「今年の桜はご覧になりました?」と田辺さんがご近況を報告されたり、客席からは笑い声が漏れたりと、会場のアットホームな雰囲気がそのまま収録されています。
物語の中で源氏の君に惹かれ胸躍らせる女たちの心の内、噂話を囁き合う女房たちの様子、いつまでも藤壺の影を追い求めてしまう源氏の苦悩、出生の真実に戸惑う薫などを、田辺さんは声色や口調を変え何役も演じ分けています。恋仲の男女が交わす歌は情感たっぷりに、源氏の美しさにみとれる女房たちの姿はきゃぴきゃぴと。なんとなく難しそうと活字で読むのはどうも抵抗が……と言う人には本当にお薦めですよ。私はiPodに入れて、通勤中や散歩中に少しずつ聴きました。
また、田辺さんが講演中に披露された、沖縄民謡や女学校時代の校歌なども聴くことができます。一緒に手拍子したくなるような明るく繊細な歌声は、聴くものの心を晴れやかに清らかにしてくれます。そして最後の講演ではなんと、会場のみなさんと「花」を合唱されるのです。
「春のうららの隅田川 のぼりくだりの船人が 櫂のしづくも花と散る ながめを何にたとふべき」
実はこの歌詞の原型となった和歌が「源氏物語」には登場し、講演でも紹介されました。
「春の日のうららにさして行く舟は 棹のしづくも花ぞ散りける」
これは、光源氏の住処六条院の、煌めくばかりの栄華を詠ったものです。必ずしも明るい結末ではない「源氏物語」ですが、田辺さんの講演は、お人柄のままに明るく楽しく締めくくられました。
千年紀のブームだけに終わらず、世界に誇る文学がこれからも読み継がれ、聴き継がれていくことを願っています。
「yom yom」編集部(M・T)