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yom yom ヨムヨム 23号 特別定価:780円(743円)

ミリアムも雪子も少女の名前

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 多くの出版社がPR誌を出していて、100円とか200円の値段をつけていますが、小さな声で言うと、本屋さんに置いてさえあれば、たいていの場合タダで貰えます。
 仮にも出版社が読書好きのために作る小冊子ですから、それぞれに力がこもっていて、新刊書の案内以外にも、連載やコラム、対談記事などなかなか捨てがたい味があります。

 各社のPR誌と僕が愛読している連載を挙げていくと、文藝春秋は「本の話」(小林信彦「黒澤明という時代」)、筑摩書房が「ちくま」(岸本佐知子「ネにもつタイプ」!)、講談社は「本」(原武史「鉄道ひとつばなし」が連載150回を超えています。80円と安い)、角川書店には「本の旅人」(珍しくマンガの連載があって大島弓子さんと榎本俊二さん)。
 光文社が「本が好き!」(豊崎由美「ガター&スタンプ屋ですが、なにか?」)、朝日新聞出版は「一冊の本」(金井美恵子「目白雑録3」)で、みすず書房は「みすず」(315円と高いが、精神科医中井久夫さんの「臨床瑣談」は必読モノ。丸山ワクチンに関しての回など内容・文章ともに素晴らしかった。中井さんは岩波書店の「図書」にも「私の日本語雑記」を連載中で、出版社PR誌界のひそかなトップランナーです)。

 こうしてみると、出版社名か本絡みの雑誌名ばかりですが、そんな中で新潮社のPR誌が「」というのは悪い誌名じゃないですね。ちょっと「yom yom」みたいなセンス(PR!)。
「波」では、たとえば新刊に事寄せた作家インタビューや対談が面白い。往年の「純文学書下ろし特別作品」シリーズの挟み込み付録の対談はまず「波」に掲載されていましたし、僕が入社したころ載った、『センチメンタルな旅・冬の旅』をめぐる荒木経惟さんと篠山紀信さんのケンカ対談なども忘れがたい。この小冊子の伝統芸でしょうか。

「波」1月号には、最新短編集『夕映え天使』の刊行にともなって、浅田次郎さんのインタビューが掲載されています。やはりこまごまとした創作の秘密を語って興味深いものですが、「これまでにお読みになった数多くの短編の中で、お手本にした作品はありますか」という質問に答えて曰く、

「若い時分には、これがお手本だと考えたものは幾つもありました。例えば、何度も読み返して心に残っている小説が、カポーティの『ミリアム』という小説です。短編小説としての肝をしっかりつかまえている感じがあって、「鉄道員(ぽっぽや)」は、その影響を、わずかながら受けています」

 おや、あれは積読だったぞ、と「ミリアム」(『夜の樹』所収)を引っ張り出して読んでみました。
 カポーティのほぼ処女作(大手の雑誌に載った初めての小説で、この短編で一挙に注目されました)で、20歳の時に書かれたもの。びっくりするくらい巧みです。着実で、華やかで、繊細で、何よりチャーミング。女主人公のミセス・ミラーおよび、舞台となる時間と場所を紹介する、冒頭のたった3つのパラグラフだけで読者を釘づけにします。
 雪、謎めいた少女、閉ざされた場所、失われた無垢、時間、寂しさを抱えた初老の人物――。1945年にNYで書かれたこの瀟洒な短編が浅田さんの念頭にあったのならば、「鉄道員(ぽっぽや)」はちょうど50年後の東京で書かれたみごとな返歌のように思えます。ミリアムという少女が忘れられない印象を残すように、北海道のあの小さな駅に現れた雪子を、みんな覚えているでしょう。しかしそれは、いわば小説のうわべだけのこととも言え、「短編小説としての肝」とは何か、じっくり読み較べたくなりました。

「yom yom」編集部(K瀬)

2009年01月15日
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