ホーム > 雑誌 > yomyom > おススメの一冊 > 上橋菜穂子『精霊の守り人』

yom yom ヨムヨム yom yom ヨムヨム
じっくりヨムヨム、ぱらぱらヨムヨム、晴れの日も雨の日も、楽しくヨムヨム

 >> What is「yom yom」?

最新号目次 yom yom便り おススメの一冊 yom yomの作家たち 壁紙プレゼント バックナンバー


yom yom ヨムヨム 23号 特別定価:780円(743円)

上橋菜穂子『精霊の守り人』

書籍詳細を見る
 先日のyom yom便りでお伝えしたように、2月27日発売のyom yom vol.10では「おいしい話」の特集をします。宮尾登美子さんに思い出の味について伺ったり、文士が愛したレシピを(編集長自ら!)再現したり、東京で各国料理店を巡って「世界一周の旅」をしてみたりと、読んでいるだけでお腹がいっぱいになるような、むしろお腹が空いてきそうな企画が満載です。
 多くの小説家が色々な食べ物を愛し、愛した(または嫌いな)食べ物を小説に登場させていますから、そんな小説を読むとお腹が鳴ってしまうこともしばしば。例えば村上春樹さんの『風の歌を聴け』です。主人公の「僕」と「鼠」は、一夏中かけて「まるで何かに取り憑かれたように25メートル・プール一杯分ばかりのビールを飲み干し」ました。読んだ時分はまだ高校生だったので、「あんな苦くてマズイものをプール一杯分も飲むなんて」と信じられませんでしたが、今はどの季節に読み返しても、冷えたビールをくいっと飲んで、ピーナツを食べたくなります。
 yom yom vol.6にご登場頂いた上橋菜穂子さんの作品にも、それは美味しそうな食べ物が、本当にたくさん登場します。
「守り人」シリーズは、ある理由から追われる身となった幼い皇子チャグムを、女用心棒のバルサが守ることになった『精霊の守り人』から、その壮大なファンタジーの世界が始まります。都に帰る途中に理由も分らぬまま命を狙われ、心身ともに疲れきったチャグムに元気を与えてくれたのが、バルサの仲間のトーヤが用意してくれた何とも美味しそうな食事でした。
「米と麦を半々にまぜた炊きたての飯に、このあたりでゴシャとよぶ白身魚に甘辛いタレをぬって香ばしく焼いたものがのっかり、ちょっとピリッとする香辛料をかけてある。いい色につかった漬け物もついていて、なんともおいしそうだった。」
「トーヤたちが買ってきてくれたのは、鳥飯だった。ジャイという辛い実の粉とナライという果実の甘い果肉をまぶしてつけこんだ鳥肉を、こんがりと焼き、ぶつ切りにして飯にまぶしたもので、これもじつにおいしかった。トーヤたちは、竹の筒に入った、まだ湯気がたっている熱いお茶や、果物なども買ってきていた。」
「ゴシャ」「ジャイ」「ナライ」は現実には存在しない食べものですが、それでも頭の中に想像することができませんか? 実際に作れてしまいそうなリアリティが“上橋レシピ”にはあるのです。
 というのも、異世界を舞台に人間ドラマを描く上橋さんにとっては、“食”を細かく描写することは、物語世界を構築するのに、大きな役割を果たしているからだそうです。味噌や醤油が出てくれば、その世界の人々は発酵技術を会得しているし、新鮮な魚を食べていたら、海や川が近くにあると分る。食事を描くことは「その世界がどのようなものか」を読者に簡単明瞭に伝える手段の一つだと上橋さんは言います。魔法や人知を超えた不思議な力で都合よく問題が解決されないことはもちろん、異世界ではあるけれど、土地の文化や人間臭さを感じることができる。こういった細部のリアリティにまでこだわって物語を紡ぐこと――それも、年齢性別を問わず多くの人を惹きつける上橋作品の魅力のひとつだと思います。
 チャグムの成長、バルサの活躍、タンダとの恋。絡み合う各国の政治はやがて戦争に発展してしまい……。シリーズが進むほどにどんどんと奥行きが増していく「守り人」シリーズですが、“食”を楽しむというまた別の味わいもあります。今夏には、上橋作品に登場する食事を再現したレシピ本も新潮文庫から発売する予定です。こちらもどうぞご期待下さい。

「yom yom」編集部(M・T)

2009年02月16日
Trackback


ページの先頭へ戻る