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yom yom ヨムヨム 23号 特別定価:780円(743円)

黒柳徹子『小さいときから考えてきたこと』

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 最近の若者を表する「草食男子」に続き、自分で作ったお弁当を毎日会社や学校に持参する「お弁当男子」なんて言葉もよく耳にします。彼らは冷凍食品を使わず、週末に一週間分の下ごしらえをしたり、冷蔵庫の残り物で就寝前におかずをちゃちゃっと作ったりと、なかなかのツワモノぶりです。
 私はお弁当作りなど普段はほとんどしませんが、ちょっとしたコツだけは母から仕込まれました。それは「“海のものと山のもの”が入っているお弁当は栄養満点」ということです。そしてこのコツを母は(お気づきの方も多いと思いますが)、“トットちゃん”から教えてもらいました。

“海のものと山のもの”は、黒柳徹子さんが小学生時代の思い出を綴った名著、『窓ぎわのトットちゃん』(講談社文庫)に登場するエピソードのひとつです。魚や佃煮・ちくわにのりは“海のもの”、肉や野菜・卵は“山のもの”。この両方がおかずに入れば栄養のバランスはとれるし、献立を考えるのも簡単というわけで、徹子さんが通った小学校・トモエ学園の、故小林宗作校長が子どもや保護者たちに教えました。

 小学生で初めて読んで以来、何度も『窓ぎわのトットちゃん』を読み返しましたが、毎回唸ってしまうのは、徹子さんの記憶の細やかさです。先生に言われた言葉、友達とのやりとり、縁日の賑わい、町の様子、家族の会話などが、まるで昨日のことのように、鮮明に生き生きと綴られます。その理由についてエッセイ集『小さいときから考えてきたこと』の冒頭で、「小さいときのことを、とても、はっきりと憶えてる人もいるし、その辺りが漠然としている人もいる。私は、小さいとき、色んなことがあって、はっきりと憶えていない訳にはいかなかった。だから、あれこれ、とても鮮明に憶えている」とお書きになっています。
『小さいときから考えてきたこと』では、今の黒柳徹子さんの日常――幼少時代から変わらぬ数々の失敗や、ユニセフ親善大使としての活動、沢村貞子さん渥美清さんとの別れなど――が、“トットちゃん”時代に感じたり考えたりした思い出を織り交ぜながら語られます。
 また、徹子さんの文章は、細やかさに加えて、非常に分かりやすく美しくもあるのです。私の大好きなくだりをご紹介すると、

(祖母は)ある日、頭のてっぺんに、直径三センチくらいの、まん丸の大きなハゲがあるのを見せてくれた。それは、昔のことで、「マルマゲを結っていたので、毛を全部、いつも、ここでキリキリまとめたので、こういうものが出来たのです」と、祖母は説明した。そして、いまの、まとめた髪形にする時は、見えないように、ちゃんと結うのです、とも、いった。以来、私は、何とか祖母より早く起きて、祖母が髪を結う前にそのハゲを見ようとしたけど、いつも失敗で、目が覚めたとき、祖母は、もう本を読んでいた。


 流れるような文章に、いつの間にか気持ちよく乗れるからこそ、思わず笑ったり泣いたりできる。テレビで見る、早口で軽快に話される徹子さんとはまた違う印象を受けるのではないでしょうか。

 徹子さんはこの本を通して、子どもには「かなり、自分なりの、感受性とか判断力とか」があってちゃんと物事を考えている、と様々なエピソードを交えて繰り返し伝えています。また、子どもが持つ、魔法のような純粋さと優しさを強く信じているし、何より、大人になった今も変わらずそれらを持ち続けている。読後、幸せな気持ちと同時にちょっとした切なさを感じるのは、自分が忘れてしまったものや失くしてしまったものを、トットちゃんに重ね見るからかもしれません。

「yom yom」編集部(M・T)

2009年08月17日
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