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yom yom ヨムヨム 23号 特別定価:780円(743円)

たったひとりの女

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 大学の卒業論文で、『ロビンソン・クルーソー』をテーマにしました。当たり前の生き方なんてしたくない!と父親の制止を振り切って船乗りになったロビンソンが、大嵐で無人島に漂着し、独力で生活すべく奮闘する物語です。(こんな説明は無用なくらい、よく知られた作品ですね……。)ロビンソンの無人島生活に見られる資本主義の精神を中心に論じました。口頭試問を終えると、指導教授から「この論文、もらってもいい? 内容はともかく、脚注の付け方や引用のルールが守られているから、下級生のお手本にしたいの」と言われて、情けなくもちょっと嬉しい、複雑な気持ちになったのを覚えています。
 他にも、ジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』やウィリアム・ゴールディング『蠅の王』、吉村昭『漂流』など、孤島でサバイバルする小説は数多く存在しますが、このジャンルに近年生まれた新たな傑作といえば、桐野夏生さんの『東京島』ではないでしょうか。

 世界一周クルーズの最中に暴風雨に遭い、清子は夫の隆とともに無人島に流れ着きます。しばらくして、日本人の若者の集団と中国人も漂着し、彼らは奇妙な共同生活を送ることに。いつしか「トウキョウ」と名づけられた島には、男が31人、女は清子ただひとり――。40半ばを過ぎた清子は、男たちから熱烈に求められ、隆が死んだあとも、元ヤンキーのカスカベ、頭の悪いノボル、記憶喪失を主張するGM、と次々に新しい夫を迎えます。ところが、清子が夫や男たちを裏切って、島からの脱出を試み失敗して以来、男たちの態度は次第に変化して……。

 女性が存在しない『ロビンソン・クルーソー』の孤島とちがって、トウキョウではたったひとりの女性である清子に対して、男たちの視線が集中します。愛情、崇拝、憎悪、軽蔑……。その視線に伴う感情はそれぞれですが、誰にとっても強烈な存在感をもっているのです。ジャワ更紗を着た清子が夫・隆の葬儀に姿を見せた途端、その女らしい姿に圧倒され、泣き出す者まで出る場面はとても印象的です。
 悪食で衰弱死する者、気が触れる者、多重人格になる者など、迷走する男たちと対照的に、清子は常に「生き延びる」ことにのみ情熱を燃やしているように見えます。そのときどきの夫を愛し、セックスを楽しんではいるものの、それすらも島で女神として君臨し、よりよい条件で生きるための手段にも感じられます。物語の中盤、そんな清子の身に予期せぬ変化が訪れます。果たして清子は生き延びることができるのか。衝撃の最終章まで、興奮の連続です。ぜひご一読を。
『東京島』は映画化もされ、8月28日から全国で公開されます。清子を演じるのは木村多江さん。こちらも楽しみです。

「yom yom」編集部(H・M)

2010年08月16日
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