死ぬだろうか――。
また、淳一は思った。
殺人……。
あいつが死んだら、僕が殺したことになるのか?
殺人者。人殺し……。
窓の向こうから、自分の眼が見つめている。
ひ、と、ご、ろ、し――と、声に出さず口の形だけで言ってみた。
手錠をかけられる自分を思い浮かべてみる。
あまりうまくいかない。手すりをつかんでいる腕に目をやる。銀色に光る輪をその腕にかけてみる。
逮捕されるだろうか?
警察は、僕のところへやってくるだろうか?
僕がやったという証拠があれば……。
淳一は、自分の手を見返した。
手すりをはなし、その金属の表面に眼を近づける。
ぼんやりと、指紋が白く残っていた。
なにか、厭な気持ちがして、淳一は、手すりの上の指紋を指先でこすった。
指紋。
残っている。あいつの家には、僕の指紋がいくらでも残っている。
ごくり、と唾を呑み込んだ。
なにも、後始末はしてこなかった。
あいつを地下室へ閉じ込め、そのまま玄関を出た。手の中に鍵を持ったままだと気づいて、それを隣の家の庭へ放り込んだ。玄関の鍵は開いたままだ。
グラスが二つテーブルに載っている。片方はあいつが飲んでいたグラス。もう片方は淳一が渡されたもの。そのグラスには、はっきりと指紋が残っている。グラスだけではない。ボトルにも、淳一の指紋は残されているはずだ。
淳一は、自分の手に触れたものを数え上げた。
ドアのノブ。靴を脱いだとき、脇の壁に手をついた気がする。腰を下ろした椅子の肘掛け。テーブルの表面と、その天板の裏側。グラス。ボトル。アイストング。マドラー。サラミを載せていた皿。洗面所の蛇口のコックと、トイレの水洗コック。洗面台にも手をついただろうか? ついたかもしれない。
テーブルの上に置いてあった週刊誌。テレビのリモコン。あいつは、定期入れの中からガールフレンドの写真を取り出して見せた。写真は受け取って眺めたから、やはり当然指紋がついている。あいつは、そのガールフレンドとホテルへ行き、そこでオフクロとかち合わせしたと言った。
そして、もちろん、地下室のドア。その中の棚板。ドアの錠。隣の家の庭に放り込んだ鍵――。
指紋だらけだ。
淳一は眼を閉じた。
指紋だけじゃない。髪の毛だって何本かは抜けて落ちただろう。
僕が、あそこにいたことを証明するものは、いくらでもある。
あいつは、外側から鍵のかかった地下室で死んでいる。しかも、顔と腹を殴られている。どう見ても、それが事故や自殺になるわけはない。
殺人罪……。
あいつが生きて助け出されたとしても傷害罪――。
目の前が、再び明るくなった。
駅に着いた。駅名表示を見る。青山一丁目。
電車がスピードを落とし、停車してドアが目の前で開いた。
どうする?
引き返すのか?
あいつの家に戻るのか?
淳一の足は動かない。
喉がひくついた。
戻るとしたら、なんのためだ?
証拠を消すためか?
それとも、あいつを地下室から助け出すためか……?
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