![]() | 24:11 虎ノ門-新橋駅-銀座 |
不意に、鳩尾のあたりに冷たいメスの刃が当てられたような感覚を覚えて、有馬は、ぞくりと身体を震わせた。 たまったもんじゃないな……。
小説は、そこで終わっていた。 このあと……どうなるんだ? だって、焼かれたって死なないんだろ、こいつ……。 なんて、話なんだ。 文庫を膝の上で閉じ、ぼんやりと顔を上げた。 いつの間にか、どこかの駅に着いていた。 どこだろう──。 首を回しかけたとき、ドアが閉まり、電車が動き始めた。 そのとき──。 有馬の目の前に立っていた男が、いきなりつんのめるようにして床に倒れた。 「…………」 眼を見開いて、倒れた男を見つめる。 厭な気持ちがした。あんな小説を読み終えたばかりだったからかもしれないが、有馬の目には男が死んだように見えたのだ。 しかし、当然のことながら、死んだわけではなかった。男は多少フラフラしながら立ち上がり、後方を向いて先ほどと同じような姿勢をとった。自衛隊か、警察官か……そんな感じがした。男の立ち方が、あまりにもピチッとして見えたからだ。 先ほどの駅で多少乗客の乗り降りがあったらしく、車内の様子が変化していた。見通しがききやすくなっている。 「…………」 後ろのほうへ目をやって、有馬はふと首を伸ばした。 あいつ──どこへ行ったんだ? |
![]() | 目の前に 立って いた男 |