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 23:57 浅草駅-田原町駅
 深沢英和
(ふかざわ ひでかず)


     やけに暑い……。
 
 と、英和は襟元をゆるめながら思った。
 蒸している。首筋も、掌も、背中も、胸も、どこもかしこも汗ばんでいる。
 ぼんやりと車内を見渡した。
 よくみんな我慢していられるものだ。冷房が効かないのだろうか? いや……まだ、冷房を入れる季節じゃなかったっけ? 今は、何月だ?
 
 腕時計をした左手がむずがゆかった。ベルトの下の皮膚が、ヌルヌルして気持ちが悪い。ベルトをゆるめて時計の位置をずらし、そのあたりの皮膚を指先で引っ掻いた。時計にしめつけられていた跡がくぼんで皮膚に残り、そこだけピンク色にくっきりと形がついている。
 よく見ると、ピンクに変色した皮膚の表面に、細かい皺が寄っていた。指の腹で、その皺を伸ばすように押してみる。
 
「…………」
 
 奇妙な感覚がした。皮膚がズレたように思えたのだ。
 目を凝らして見ると、指で押さえたところだけ、ピンクの皮膚が引っぱられたままの形で寄っている。まるで、皮膚の表層だけ、ラップフィルムでも張りつけたような感じだった。
 
 なんだ、これ?
 
 皮膚の皺を爪で挟んでつまんでみた。
 英和はギョッとした。
 爪に挟んだ皮膚が、薄皮一枚、木の葉の形にペロリと剥がれたのである。
 剥離した皮膚の下に、真皮が赤く光っていた。
 
「…………」
 
 英和は、思わず自分の周囲に視線を泳がせた。
 彼を見ているものは誰もいない。
 車内アナウンスがなにか言っていたが、英和にはその言葉の意味が聞き取れなかった。
 
 自分の手首に再び目を返した。
 どうして……?
 動悸が激しく打っている。内股と脇腹と脇の下にできた肉腫が、その動悸にあわせてモグモグと動いていた。
 
 なんだよ、これ?

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