23:57 浅草駅-田原町駅 |
正面の窓の外を、黒い壁が右から左に流れている。 英介は、その壁をじっと見つめていた。 壁の上を、太いパイプが走っている。壁と同じように、やっぱり黒くて汚れている。黒いパイプが、黒い壁の上を、ヘビのようにグネグネと動いていた。 ちょっとだけ、こわかった。 こわいけれど、英介はその黒いヘビから目が離せなかった。壁から首をもたげ、この電車に入ってくるんじゃないかという気がした。 そんなこと、あるわけないじゃん。 英介は、そんな子供っぽいことを考えた自分がおかしくなった。 あれはね、壁にくっついてるの。動いてるように見えるけど、ほんとはそうじゃないの。大工さんが、かなづちでトントンってたたいて、釘でくっつけてあるの。だから、こっちには来ないんだよ。 うん、と英介は小さくうなずいた。 もし、あれが、そうじゃなくて、こっちに入ってきたとしても、コルト・ガバメントで殺してしまえばいい。 コルト・ガバメント……英介は、もう一度、小さな声でその言葉を言ってみた。 すげえ、かっこよかった。 マガジン入れて、セイフティ外して、それから上のとこ握って後ろに引っぱる。 ばきゅーん! ズボンのベルトの後ろのとこに、はさんでおくのが正式なんだ。 で、抜いたら、両方の手で持って、天井に向ける。人のほうに向けると危ないから。殺人犯人がきたら向けていい。 ばきゅーん! アイル・ビー・バック! こんど、また、たかしくんのお兄ちゃんにさわらせてもらうんだ。 コルト・ガバメント。 なんだか、とっても気持ちがよかった。 目を閉じていると、ほんとに気持ちがいい。 だって、眠いんだもん。 英介は、夢の中で、太くて黒いヘビを撃ち殺した。 |