23:57 - AKASAKAMITSUKE - Naoto Arima

<BODY BGCOLOR="#222222" TEXT="#FFFFFF" LINK="#FFFFFF" VLINK="#FFFFFF" ALINK="#FF0000"> 　　　<A HREF="../inde/i57n.htm"><IMG BORDER=0 SRC="gif/tab-i.gif" ALT="インデックス"></A> <A HREF="../inde/cast.htm"><IMG BORDER=0 SRC="gif/tab-p.gif" ALT="人物インデックス"></A> 　　　　　　　　<A HREF="358nn049.htm"><IMG BORDER=0 SRC="gif/tab-n.gif" ALT="次の時刻"></A> <P> <H2>　　<IMG SRC="icon/049-b.gif">　23:57　赤坂見附駅　有馬直人</H2> <HR SIZE=3> <TABLE BORDER=0 ALIGN=CENTER CELLPADDING=0> <TR> <TD>　　　　　　　　　　　　</TD> <TD> 　５７分、あっている。<BR> 　ホームの電気時計の表示と腕時計を見比べて、有馬直人は小さくうなず<BR> いた。<BR> 　<BR> 　少々、早く来すぎたようだ。<BR> 　ホーム中程の時刻表をながめ、自分の乗る電車が２本目だということを<BR> 確認すると、有馬は水飲み場脇のベンチへ腰を下ろした。ポケットから文<BR> 庫本を取り出し、しおり代わりに折ったページを開いた。<BR> 　煙草を取り出そうとして、駅の構内が禁煙だったことを思い出し、肩を<BR> すくめて開いたページに目を落とした。<BR> 　<BR> <TABLE BORDER CELLPADDING=6><TR><TD> 　他の男のことは知らないが、ぼくの場合、女性から手を差し<BR> 伸べられたときは、その手を取る。ほとんど条件反射みたいな<BR> ものだ。<BR> 　<BR> 　むろん、このときぼくの前に手を差し出したのは美代子だっ<BR> たわけだし、ぼくたちの関係はかなり微妙だった。はっきり言<BR> うと、別れ話をしている最中だった。しかも、その話を持ち出<BR> したのはぼくのほうだ。手を取ったぼくが迂闊だったと言われ<BR> れば、返す言葉はない。だけど、彼女の手を取るというたった<BR> それだけのことが、こんな悲惨な結果になるなんて、いったい<BR> 誰が想像できるというんだ？<BR> 　<BR> 　だって美代子は、わかった、と言ったのだ。やや沈んだ声を<BR> 震わせながら「わかったわ」と言ったのである。そして、椅子<BR> に腰掛けたぼくのほうへゆっくりと両手を差し出した。まるで<BR> 映画の中の貴婦人がひざまずいた男に対してするみたいに、そ<BR> ろえた両掌を下へ向けて、ぼくの胸の前に差し伸べた。なにも<BR> かも許してあげるというように。<BR> 　<BR> 　それが罠だなんて誰が思う？<BR> 　僕は自分の膝から手を持ち上げて、美代子の手を取った。右<BR> の掌に貼りつくような妙な感覚が走ったが、ぼくが手を引くよ<BR> りも早く、彼女は渾身の力をこめてにぎり返してきた。<BR> 　<BR> 「な、なにを……」<BR> 　と、僕は彼女の手を振りほどこうとした。しかし、それがで<BR> きたのは左手だけだった。ぼくの右手は、彼女の左手に吸いつ<BR> いたように、にぎりしめられたままだった。<BR> 　<BR> 「美代子……放せ。何か、手に――」<BR> 「シアノアクリレート」<BR> 　と、美代子は小さくぼくに言った。<BR> 　<BR> 僕は、右手をにぎられたまま、彼女を見返した。<BR> 「シアノ……？」<BR> 　美代子はぼくに微笑み、すぼめた口から、ふっ、と溜め息の<BR> ようなものをついた。<BR> 「瞬間接着剤なの」<BR> 「…………」<BR> 　僕は、にぎられた右手を凝視した。<BR> 「さっき、手に塗っておいたの」<BR> </TD></TR></TABLE> 　<BR> 　一つ向こうのベンチに、男が腰を下ろした。<BR> 　有馬は、その男のほうへチラリと目をやった。<BR></TD> </TR> </TABLE> <HR SIZE=3> <P> 　　　<A HREF="../inde/i57n.htm"><IMG BORDER=0 SRC="gif/tab-i.gif" ALT="インデックス"></A> <A HREF="../inde/cast.htm"><IMG BORDER=0 SRC="gif/tab-p.gif" ALT="人物インデックス"></A> 　　　　　　　　<A HREF="358nn049.htm"><IMG BORDER=0 SRC="gif/tab-n.gif" ALT="次の時刻"></A> <P> </BODY>