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 23:57 表参道駅
 菊池留美
(きくち るみ)


     改札を抜け、ホームを歩きながら、菊池留美はこみ上げそうになるものを必死で抑えていた。
 
「そんなに公雄が憎かったんですか!」
 
 そう言った天野公雄の母親の声が、ずっと留美の耳にこびりついている。
 憎かったのだろうか? と、留美は自分に問いかけた。
 あたしは、天野君が憎かったんだろうか。
 
 あの子は泣いていた。職員室で、1時間近く、あの子はずっと泣き続けていた。
 
「どうして泣いてるの?」
 と、留美は公雄に訊いた。
「滝川君も泣いているのよ。どうして、滝川君が泣いたと思う?」
 何度も、留美は公雄に問いかけた。いや、問いつめた。
 あれは、天野君が憎かったからなのだろうか?
 
 留美は、手に持ったハンカチを握りしめた。
 ベンチへ腰を下ろし、深く息を吸い込んだ。
 
 とうとう、天野公雄の母親は、留美を家に上げてはくれなかった。
 せめてお焼香だけ、と言った留美を、母親は赤く泣きはらした眼でにらみつけた。
 
「あんたが、殺したのよ!」
 
 彼女は、そう叫びながら、留美にサンダルを投げつけた。
 あたしが殺した……。
 留美は、ゆっくりと首を振った。
 何度も、何度も、首を振った。

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