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改札を抜け、ホームを歩きながら、菊池留美はこみ上げそうになるもの
を必死で抑えていた。
「そんなに公雄が憎かったんですか!」
そう言った天野公雄の母親の声が、ずっと留美の耳にこびりついている。
憎かったのだろうか? と、留美は自分に問いかけた。
あたしは、天野君が憎かったんだろうか。
あの子は泣いていた。職員室で、1時間近く、あの子はずっと泣き続け
ていた。
「どうして泣いてるの?」
と、留美は公雄に訊いた。
「滝川君も泣いているのよ。どうして、滝川君が泣いたと思う?」
何度も、留美は公雄に問いかけた。いや、問いつめた。
あれは、天野君が憎かったからなのだろうか?
留美は、手に持ったハンカチを握りしめた。
ベンチへ腰を下ろし、深く息を吸い込んだ。
とうとう、天野公雄の母親は、留美を家に上げてはくれなかった。
せめてお焼香だけ、と言った留美を、母親は赤く泣きはらした眼でにら
みつけた。
「あんたが、殺したのよ!」
彼女は、そう叫びながら、留美にサンダルを投げつけた。
あたしが殺した……。
留美は、ゆっくりと首を振った。
何度も、何度も、首を振った。
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