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改札を抜けて階段を降りると、石垣はガランとした一番線ホームを見渡
した。
また、来てしまった……。
これで、もう何度目になるのだろう。
この3年の間に、いったい幾度、ここへ足を運んだだろうか。
地下鉄銀座線上野駅、一番線プラットホーム。やや古ぼけ、煤けたよう
なホームの、浅草寄り――最後尾。
ホーム全体は比較的広く作られているが、この階段を降りたあたりだけ
は先細りしたように狭い。
ここに、妙子が立っていた。
石垣は、ゆっくりと階段の一番下の段に腰を下ろした。ぼんやりと、前
方に伸びるホームを眺める。この閑散とした光景も、すっかり見飽きてし
まった。
3年前の5月17日。その日が始まろうとする午前零時ごろ、妙子はこ
こに立っていた。
それを、駅の職員が記憶している。
石垣が示した3枚の写真を、駅員は何度も見直して、間違いありません、
と言った。
「階段の前に立っておられたので、恐れ入りますと言って脇へ避けていた
だいたんです。なんとなく淋しそうにしておられたので印象に残っている
んでしょうかね。丸井の紙袋を提げて、ポツンと1人で立っておられたよ
うに思いますけど」
そして、妙子に関する情報のすべてが、ここで途絶えた。
零時2分発の渋谷行が、このホームから出る。
目撃者を発見することはとうとうできなかったが、零時前後にここに立
っていたとすれば、妙子はその電車に乗ったのだろう。
こんな夜中の電車に乗って、いったいどこへ行ったのか?
妙子の乗った電車が、あと数分でここへやって来る。
零時2分発の渋谷行。
何度、その電車に乗ってみたことだろう。
電車に乗ったところでなんの意味もないことは、石垣にもよくわかって
いた。
だが、今日も、彼は、その電車の到着を待つ。
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