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 23:58 上野広小路駅
 落合綾佳
(おちあい あやか)


     何を表わしているのだろう、なんて訊かれても、ちょっと読んだだけじゃ、問題そのものがよくわからない。
 
 綾佳は、問題がプリントされた紙切れを横にしてみたり縦にしたりして眺めた。
 こういうこと、あのパズ研、毎日ひねくり回したりしてるってわけ? 
それって、けっこうアブナイよな。
 見た目は、ちょっとシブイかなと期待も持ったのだ。だから、話しかけられて悪い気はしなかったし、でも、暗号パズルを作る男……?
 やっぱ、アブナイよ。
 
 ええと、なんだって――?
 
 綾佳は首を振りながら、問題を見返した。
 電車に乗って、自分一人のアパートに帰るだけ。べつに、なにをしなきゃってことがあるわけでもない。
 
【EXLI IBXVE XIVVIWXVMEP】は【THE EXTRA TERRESTRIAL】であり……?
 ようするに、【THE EXTRA TERRESTRIAL】を暗号で書くと前のヤツになるってことか。
 THE EXTRA TERRESTRIAL って、「未知との遭遇」だよね。
 綾佳は、スピルバーグの映画を思い出した。男の子が、輝くUFOを見て「アイスクリーム!」と声を上げるシーンが好きだった。
 
 てことを考えるんじゃなくて、暗号なのね。
 
 はいはい、と綾佳は自分にうなずいた。
 でも、暗号ったって、どうやって考えたらいいの?
 なんで【EXLI IBXVE XIVVIWXVMEP】が【THE EXTRA TERRESTRIAL】になるのよ……。
 ええと、EがT? ETとか言って。あれもスピルバーグだ。不覚にも泣いてしまった映画だ。
 いや、その、XがH?……そういうんじゃないみたいだな。だいたい、文字数が違うもの。
 
 あれ?
 と、綾佳は、問題を見直した。
 試みに、文字数を数えてみる。
【EXLI IBXVE XIVVIWXVMEP】は単語が3つ、【THE EXTRA TERRESTRIAL】も単語が3つ。
 ただ、最初の単語だけが、暗号文は4文字で1文字増えている。
 あとの二つの単語は、5文字と11文字で、両方とも同じ字数だった。
 
 これ……なにかのヒントかな?
 同じ字数なら、並べてやると?
 
【EXLI IBXVE XIVVIWXVMEP】
[ THE EXTRA TERRESTRIAL]
 
 最初の単語はちょっと無視して、次の単語から見てみよう。
【I】が[E]だと考えると……あ、そうじゃん!
【XIVVIWXVMEP】の中の【I】は[TERRESTRIAL]では、二つとも[E]だ!
 
 そうか、なんだ、単純じゃないか。
[E]を【I】に置き換えてあるだけなのだ。
 
 他の文字も見比べてみた。
 まだある。
[T]は【X】に、[R]は【V】に、[A]は【E】に、それぞれ変わっている。
 
 ちょろいぜ、パズ研。
 綾佳は、問題を見ながらにやりと笑った。
 
 しかし、その笑いが、問題の次を見て引っ込んだ。
【WCKJA SEPD PDA SEJZ】は[GONE WITH THE WIND]である……
 そこでは、[E]は【A】になっていたからだ。

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