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ホームには、あまり人がいなかった。
最後尾のほうへ歩きながら、芳賀は、何を買おうか、と考えた。
若い女が一人、壁に寄りかかりながら手紙を読んでいた。学生だろうか
?
まだ、女というよりも、女の子といった感じだ。
「なんなのよ!」
いきなり、その若い女が声を上げて、芳賀は「は?」と思わず足を止め
た。
芳賀に言ったのではなかったらしい。
彼女は、こちらへ目を上げ、慌てたように首を振り、また手紙に視線を
落とした。
なんとなく、それ以上進みづらくなって、芳賀はその場で電車を待つこ
とにした。
何を買おう?
再び、それを考えた。
家、はだめだ。
1200万円では、かなり郊外に出ないと家など買えない。それに第一、
家やマンションを買うのは目立ちすぎる。
目立つような買い物は、避けたほうが無難だろう。妙に勘ぐられてはた
まらない。
つまり、大きな買い物はできないということか……。
まとまったカネもやっかいなものだな、と芳賀は掌で顎を撫でた。ジャ
リジャリと伸びかけた髭が指の腹にあたる。
急に金遣いが荒くなったりして、税務署の人間でも押しかけてこられて
は困る。
バレたら、警察行きだろうからな。
芳賀は、なんとなく、愉快な気持ちになった。
とにかく、一生に一度のことだ。1200万などという大金を拾うなん
て、あとにも先にも、これっきりのこと。よくよく考えないとな。
芳賀は、力をこめて、ジャリジャリと顎をなで回した。
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