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前の電車が行ってしまったばかりなのか、銀座線側のホームにはあまり
人がいなかった。
次の電車あたりが最終だろうと思いながら、大野功一はホームの一番先
頭に向かって歩いた。
気分が良かった。
今度はうまく契約がまとまりそうだ。あの若宮部長の酒癖の悪さにはい
ささか参ったが、感触だけは上々だった。来週中には向こうの決定が下り
るだろうし、そうなれば太いパイプが通ることになる。お百度参りも報わ
れるというものだ。
ベンチに座って電車を待とうかとも思ったが、先客が一人いた。男が一
人、ベンチで本を読んでいた。男の横も裏側も空いているが、大野はなん
となくベンチの後ろを回ってさらにホームの端まで歩いた。そのあたりは、
ホームが極端に狭くなっている。
ちょっと、飲んじゃったなあ。
ぐい、と大野は両腕を上げて背伸びをした。
その拍子に、思い出した。
そう言えば、千佳子と三宅のデートは今日だったな。
やつら、うまくオフクロさんを騙せたんだろうか? まあ、千佳子はけ
っこううまくやるだろうけど、問題は三宅のほうだよな。あの男、ほんと
にボンボンだもの。
膝に手をあてて、何度か屈伸運動をやった。
さほど、酔ってはいないようだ。
帰ったら、千佳子に電話してみるか。こんな時間じゃ、もう寝てるかな。
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