![]() | 24:02 銀座駅 |
「1番線、お下がりください。渋谷行、参ります。1番線に参ります電車、渋谷行です」
構内アナウンスが告げて、竹内は背筋を伸ばした。
付近にいる客に変化はなかった。 いや……。
竹内は、ふと考えた。
ほとんどの場合、身代金目的の誘拐犯は粗暴な連中である。考えもなく、短絡的に犯罪に走ってしまう馬鹿野郎たちだ。
だが、これが時刻表の数字の一致といったものから計画された犯罪だとすると、単なる粗暴犯タイプの犯人ではないのではないかという気がしてくる。 なにか、妙だ……と、竹内は思った。
それは、捜査本部で聞かされた犯人の電話の声の印象とのギャップからきているのかもしれない。 「何度も言わせるな、馬鹿野郎。11時57分発だ。浅草を11時57分に出る地下鉄に乗りゃいいんだよ。そのケツの箱に乗んな。間違えるなよ。一番ケツの箱だ。それで銀座で降りろ。降りたところに突っ立ってりゃいい。わかったか」 どこか、イメージが噛み合わない。
ゲーム的な犯罪計画を立てる人間のしゃべり方には思えなかった。
電車の接近する音が聞こえてきて、竹内は思考を中断した。 「ご乗車、ありがとうございます。銀座でございます。忘れ物、落とし物ないよう、ご注意下さい。1番線の電車、渋谷行でございます」
最後尾車両の3つのドアから7人の乗客が降りた。ホームにいた4人が、さっさと電車に乗り込む。 最後尾周辺のホームには、2番線の浅草行を待っている乗客1人と、竹内だけが残された。 ホームに下りた車掌が、口に笛をくわえたまま、竹内のほうへ視線を寄越した。
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