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「1番線、電車が参ります。1番線に参ります電車、銀座、赤坂見附方面、
渋谷行です。黄色い線より下がってお待ち下さい」
ホームへの階段を下りていると、アナウンスが告げていた。
ちょうどいい。
長谷川幸太は、思わず笑いを顔に出した。
つい先ほどまで、笑いたくて笑いたくて仕方がなかったのだ。
でも、もちろん、その笑いは必死に押し隠した。へんに思われても困る。
しかし、もう笑っていい。
やったのだ。私は、とうとうやったのだ!
階段を下りたところで、ホームの中央でよろけながらニヤニヤと笑いかけ
てくる男と目が合った。
「…………」
幸太は、ギクリとして立ち止まり、男から目をそらせて壁のほうを向いた。
顔の笑いを引っ込めた。
酔っぱらいのようだった。
今日はとにかく、誰にもからまれたくない。
この……と、幸太は右手に提げている紙袋に目をやった。
こいつを持っているときは、妙なヤツと関わり合いになるのだけはごめんだ。
なにせ――と、幸太は、また自分の顔がほころんでくるのを感じながら思
った。
私は、とうとうやったのだ。
とうとう手に入れた。
オーデマ・ピゲの逸品が、この中に入っているのだから!
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