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 24:08 新橋駅
 武藤 薫
(むとう かおる)


     謎に包まれた真昼の殺人――か。

 薫は、ホームを歩きながらそっと唇を噛んだ。
 いや、真昼の殺人、よりも衆人環視の殺人のほうがいいかな。

「どうやって、一本にまとめるつもりなんですか?」
 前で万里っぺ小早川さんに訊いている。
「……それを考えてるんだ」
 小早川さんは、そう答えた。

 まとめることなんてないじゃない、と薫は、クイッと顎を上げた。謎は、謎のまま出しちゃえばいいのよ。そのほうが面白い。
「まとまるもんじゃないぜ。どう考えたって」
 根本君があくび混じりの声で言った。
 そうそう、まとめることないのよ。
 全員が足を止め、薫もそこに立ち止まった。

「おかしいよね。どうして、こんなに一人一人の証言が違っちゃうの?」
 ウキウキした気持ちをなるべく抑えながら言う。
「万里ちゃん、もう一度訊くが、あの奥さんはいきなり背後から暴漢が襲ってきたって言ったんだよな」
 小早川さんは、確認が好きだ。事実関係を何度も何度も確かめる。
「そうです。赤いクルマが停まって中から大きな男が降りてきて、ご主人の背中を刺して、またクルマに乗って逃げて行ったって」

 隣で根本君が首を振った。
「ケーキ屋のオヤジは、クルマの男が背中を刺す前に、主人と奥さんの間で言い合いをしていたようだと言ってる」
「その言い合いのことは、奥さんは言ってないんだね」
 小早川さんが、また万里っぺに確認する。
「ええ……いきなりのことだったから、わけがわからなかったって」

 謎はまだあるじゃないの、と薫は全員を見渡した。
「喫茶店のウエイトレスが見たのは、クルマの脇から走り込んできた小柄な男が、ご主人に後ろからぶつかっていったって。だから、彼女はてっきりその小柄な男が刺したんだと思ったって」

 ふわあ、と根本君があくびをした。
「どうなってるんだ?」
 ほんと、と薫はうなずいた。
 どうなってるんだろ、この事件。


 
    万里っぺ 小早川
さん
  
根本君 

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