日下部敏郎・榎本ひとみ(くさかべ としろう・えのもと ひとみ)


     眼下に、巨大な穴がぽっかりと口を開けていた。
 真夜中だったはずの銀座の街が、水晶を組み合わせて作ったような美しい輝きに、明るく拡がっている。

《みんな、死んだの?》
 かつて榎本ひとみだった意識が、そう問いかけた。
《力が及びませんでした》
 かつて日下部敏郎だった意識は、そう答えた。

《ひとつになってる》
《そのようです》
《浜子さんとじゃなくて、残念ね》

《あの田原町という停車場であなたを見たとき、私は浜子だと思ったのです》
《生まれ変わり?》
《のような気がします。あなたは前世……いや、前々世ということになるのでしょうか。私の妻だったように思えます》

《どこへ行くんだろう》
《行くべきところへ》

 前方に七色の光が渦巻いていた。
 静かに、ゆっくりと、その渦巻きに引き寄せられていく。

《きれい》
《美しい》

 2つの意識が重なった。


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