満たされぬ心。空回りする愛。

愛の渇き
読み仮名 | アイノカワキ |
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シリーズ名 | 新潮文庫 |
発行形態 | 文庫 |
判型 | 新潮文庫 |
ISBN | 978-4-10-105003-4 |
C-CODE | 0193 |
整理番号 | み-3-3 |
ジャンル | 文芸作品 |
定価 | 539円 |
杉本悦子は、女性問題で彼女を悩ませつづけた夫が急逝すると、舅弥吉の別荘兼農園に身を寄せ、間もなく彼と肉体関係に陥った。彼女は夜ごと弥吉の骸骨のような手の愛撫を受けながら、一方では、園丁三郎の若若しい肉体と素朴な心に惹かれていく。だが、三郎には女中の美代という恋人がいることを知った時、悦子は……。〈神なき人間の逆説的な幸福の探求〉を主題にした野心作。
どういう本?
タイトロジー (タイトルを読む) |
悦子は忽ち肩先を抱かれて、冷たい篠竹のような手が胸もとに入ってくるのを感じた。彼女は体ですこし逆らったが、声は立てなかった。立てようとして出なかったのではなく、立てなかったのである。 この瞬間における悦子の諦念を、もしくは単なる自堕落を、安逸を、どう解釈すべきであろう。渇いた人が鉄錆の浮いた濁った水をも呑むように、悦子はこれを受け入れたのであろうか。そんな筈はない。悦子は渇いてなぞいはしなかった。何も希わないことが夙に悦子の持前になっていた。(本書76ぺージ) |
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著者プロフィール
三島由紀夫 ミシマ・ユキオ
(1925-1970)東京生れ。本名、平岡公威(きみたけ)。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。1949年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、1954年『潮騒』(新潮社文学賞)、1956年『金閣寺』(読売文学賞)、1965年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。1970年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される。