ホーム > 書籍詳細:世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ

炎熱列車、爆弾テロ、ストライキ、ビザ切れ潜伏……。車中26泊、乗継27回、15国境越え、シベリアからポルトガルまでボロボロ旅。

世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ

下川裕治/著

767円(税込)

本の仕様

発売日:2011/11/01

読み仮名 セカイサイアクノテツドウリョコウユーラシアオウダンニマンキロ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-131553-9
C-CODE 0126
整理番号 し-57-3
ジャンル エッセー・随筆、歴史・地理・旅行記
定価 767円

鉄道でユーラシア大陸を横断できないだろうか。そんな案が頭に浮かんだのが、災難の発端だった。シベリアの大地をのろのろ走るロシアの車両に始まり、切符の購入も死に物狂いの中国、中央アジアの炎熱列車、紛争の地コーカサスでは爆弾テロで停車し、Uターン。フランスではストライキに巻き込まれ……。様々な困難を乗り越えながら、最西端ポルトガルを目指し西へ向かう鉄道紀行。

著者プロフィール

下川裕治 シモカワ・ユウジ

1954(昭和29)年、長野県生れ。旅行作家。『12万円で世界を歩く』でデビュー。『ホテルバンコクにようこそ』『新・バンコク探検』『5万4千円でアジア大横断』『格安エアラインで世界一周』『愛蔵と泡盛酒場「山原船」物語』『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア横断2万キロ』『旅がグンと楽になる7つの極意』など、アジアと旅に関する著書多数。『南の島の甲子園―八重山商工の夏』でミズノスポーツライター賞大賞受賞。

書評

波 2011年11月号より “鉄道の極点”を結ぶ壮大な阿房列車

小牟田哲彦

「○○最東端」とか「××最北端」という東西南北の極地を表すフレーズは、旅する者にとって最果て感と憧れをかきたてられやすい。現地もそれを心得ていて、周囲は人跡稀な荒蕪地なのに肝心の最果ての地は華やかな観光名所になっていたりする。
この四方角の極地の座標は、純粋な陸地の果て以外にもいろんな場面で用いられる。鉄道もその典型で、日本国内では東西南北全ての極点駅に「日本最○端の駅」という標識が建てられている(北は稚内駅、東は東根室駅、南は赤嶺駅、西は那覇空港駅)。
本書は、そんな極点駅のスケールをユーラシア大陸に拡大し、東の果てから西の果てまで用もないのにカメラマンと二人でひたすら汽車に揺られ続けるという、阿房列車を地球規模で彷彿とさせる旅の記録である。のべ十九ヵ国を跨ぐ線路の総延長は約二万キロ。日本国内のJR全線に相当する距離を、およそ四ヵ月かけてカメラマンと二人で地道に走り続け、異国の慣れない鉄道事情にしばしば振り回されながらそれでも列車にこだわろうとする様子は、酔狂にも程があるのではないかと思わずにはいられない。
ただし、ただの酔狂な旅日記ではなく、本書は記録として二つの貴重な意味を持っている。その一つが「ユーラシア大陸の最東端駅はどこか」という、日本ではこれまで鉄道専門誌でも明確にされたことのない未知の事実に真っ正面から向き合って旅を実践していることだ。
ユーラシア大陸の最東端駅は極東ロシアにある。第二シベリア鉄道として知る人ぞ知るバム(バイカル・アムール)鉄道が、シベリア中部から間宮海峡に面した港湾都市まで延びており、その港湾付近の駅のいずれかがユーラシア最東端駅なのだが、それがどの駅なのか、これまではっきり検証した記録がないのだ。現地ではそんなことを気にする人などいないので、「当駅はユーラシア大陸最東端」というような看板が掲げられているわけでもない。実は私も本書の旅における最東端駅の確定作業に関わったのだが、世界中で日本人旅行者の姿を見る時代になったのに、日本海を挟んだすぐ隣の国の鉄道のことが皆目分からないという現実が今も確かに存在することを強く思い知らされた。
本書のもう一つの記録的意義は、ヨーロッパへ至る経路に中央アジアのシルクロードを選択し、さらにカスピ海の北岸を廻ってコーカサス諸国へアプローチしている点である。
ユーラシア大陸を鉄道で横断すること自体は、シベリア鉄道に乗ればさほど難しくない。これが、中央アジアやコーカサスの旧ソ連圏を経由すると、国情の違いや社会情勢の不安定さも手伝って、途端に現地の鉄道事情は不分明になる。私自身、中央アジアの列車内で泥棒に遭い、鉄道警察官には賄賂をせびられ、国境駅では身柄拘束されて列車から下ろされ、警察へ連行されたことがある。そういう地域の列車に乗る日本人もソ連崩壊から二十年を経て増えてはいるが、紀行作品やレポートとして公表されている例はまだまだ少ない。
さらに、そんな中央アジア諸国から西へ向かう旅人はカスピ海を直接船で渡るか、南のイラン経由でトルコへ向かうのが一般的だが、著者一行はカスピ海を北廻りしている。このコースを辿った鉄道紀行を記録した日本語の活字作品は、数ある鉄道専門誌も含めて、本書以前には管見の限り存在しない。本書のテーマは大陸横断という巨視的な話だが、局地的に見れば本邦初の貴重な記録にもなっているのだ。
この二つの先駆的意義に、本線からの分岐駅で車両ごと一晩放置されたり、乗っていた列車の直前で爆破テロが起こったり、国境を跨ぐ線路はあるのに国が対立していて列車の運行見込みがなかったりといった、日本では考えられない数々の鉄道事情との遭遇体験が加わり、見知らぬ世界の辺境や最果てへの憧れとほのかな冒険心がくすぐられる。
本書の場合、この「見知らぬ」というのは読者の主観だけに拠るのではない。ユーラシア大陸の物理的な広さとともに、日本人全般にほとんど知られていない場所が世界にはまだたくさんあることを改めて実感させてくれる労作である。

(こむた・てつひこ 作家)

目次

第1章 サハリンから間宮海峡を渡る
第2章 シベリアのおばさん車掌
第3章 中国は甘くない
第4章 ダフ屋切符で中国横断
第5章 中央アジアの炎熱列車
第6章 アストラハンの特別ビザ
第7章 憂鬱なコーカサス
第8章 ヨーロッパ特急
あとがき

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