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いつかあなたとの話を書きます。たとえ何十年後でも――。待望の最新長篇。

あなたの呼吸が止まるまで

島本理生/著

1,650円(税込)

本の仕様

発売日:2007/08/31

読み仮名 アナタノコキュウガトマルマデ
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 190ページ
ISBN 978-4-10-302032-5
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,650円

十二歳の野宮朔は、舞踏家の父と二人暮らし。夢は、物語を書く人になること。一風変わった父の仲間たちとふれ合い、けっこう面倒な学校生活を切り抜けながら、一歩一歩、大人に近づいていく。そんな彼女を襲った、突然の暴力。そして少女が最後に選んだ、たった一つの復讐のかたち――。『ナラタージュ』から二年、新たな物語の扉が開く。

著者プロフィール

島本理生 シマモト・リオ

1983(昭和58)年、東京生れ。1998(平成10)年、「ヨル」で「鳩よ!」掌編小説コンクール第二期10月号当選(年間MVP受賞)。2001年「シルエット」で群像新人文学賞優秀作を受賞。2003年「リトル・バイ・リトル」で野間文芸新人賞を受賞。2018年『ファーストラヴ』で直木賞を受賞。著書に『シルエット』『リトル・バイ・リトル』『生まれる森』『ナラタージュ』『一千一秒の日々』『あなたの呼吸が止まるまで』『クローバー』『波打ち際の蛍』『君が降る日』『真綿荘の住人たち』『あられもない祈り』『アンダスタンド・メイビー』などがある。

島本理生 Official Website (外部リンク)

インタビュー/対談/エッセイ

生きていくための物語を

松田哲夫島本理生

物語作家としての原点/舞踏と身体感覚/12歳という年齢/生きていくための物語を

物語作家としての原点

松田 2年ぶりの長篇小説、刊行おめでとうございます。今回の作品は、主人公が12歳の少女なんですね。
島本 はい。この年頃の子どもの物語を書いてみたいと、ずっと思っていました。
松田 全編、主人公が「ですます調」で語るという形になっていますが、これはどういう狙いだったんですか。
島本 これまでのような文体では、主人公の小学生と自分自身との距離のとり方が難しいと感じていました。子どもの視点で書いているつもりが、ふとした拍子に大人の自分の感覚が出てきてしまうんです。少し込み入ったことを言おうとすると、どんどん文章が硬くなってしまったり。それで「ですます調」にしてみたら、ずいぶん語りやすくなりました。
松田 文体の効果もあって、お話らしいというか、物語らしい作品になりましたね。
島本 私自身が初めて物語を書いたのが、12歳の頃なんです。この作品を書くことは、小説が好きだ、小説を書きたい、と強く思い始めたころの自分に戻っていく作業でもありました。原点に立ち返ったということかも知れません。
松田 今回、島本さんはこれまでの作品で培ってきたものをすべて注ぎ込んで、ひとつの物語に昇華した、と私は感じました。この作品は作家・島本理生の現時点での集大成だと思います。

舞踏と身体感覚

松田 主人公・朔の父親は舞踏家という設定ですね。舞踏についての充実した描写は、この作品の読みどころの一つだと思います。じつは、島本さんご自身のお母様が舞踏家なんですよね。
島本 はい。朔と同じように、舞踏の公演を見に行ったり、お手伝いをしたりする機会は、小さい頃からよくありました。白塗りの大人が上半身裸で踊っていたり、なんだか難しい議論をしていたり、打ち上げで酔っぱらっていたり、そういう様子は鮮明に記憶に残っています。
松田 この作品には、ご自身のそうした体験が生きているわけですね。
島本 はい。これまで、いかにも私小説というふうになってしまうのが心配で、舞踏について書くのは避けてきました。でも今回は、作品の終盤近くで起こるできごととも絡めて、子どもの頃に持っていた身体感覚をできるだけ正確に書いてみようと思いました。そういう問題意識から言っても、舞踏は欠かせない題材でした。
松田 主人公の朔は、信頼していた大人に性的な暴力を受ける。それを島本さんはけっして単純化せずに、少女の気持ちと肉体の反応を、非常に繊細に描いています。
島本 12歳の少女がこのような経験をしたとき、自分の体や感覚に何が起こっているのかは把握できないまま、大きなショックを受けると思います。こういう状況で子どもが感じ、でも自分では説明できない部分について、小説を通じてできる限り伝えていきたい、という思いが強くありました。
松田 僕がとくにすごいと思ったのは、主人公が暴力を受けて恐怖を感じながら、さらに自分の肉体に裏切られるという場面。「その瞬間、私はまるで永遠の双子のように思っていた体から突き放されるのを感じました」。
島本 たとえば、恐ろしい男がいて、女の子はショックを受けて、というところまででとどめる書き方もあると思います。でもこういう状況で、ショックによって自分が分裂していくことの恐怖もある。傷の大きさとしては後者の方がより深刻だと思います。そういう感覚的な矛盾のようなものに罪悪感を感じることはない、というところまできちんと描きたいと思いました。

12歳という年齢

松田 12歳というのは、どんな年齢だと思われますか。
島本 バランスの難しい時期だと思います。いろいろな知識も増えてきて、しゃべり方も大人のようだったりするけれど、いざ厳しい現実に直面すると、それに対応するだけの力はなくて、大きな傷を受けてしまうこともある。大人のような部分と紛れもなく子どもの部分を同時に持っている。
松田 書き手としては、大人と子どもの両方の要素を盛り込める設定でもあるわけですね。それゆえに書く上でのバランスも難しいのだと思いますが。
島本 はい。草稿の段階では、幼児性が強すぎたり、大人っぽくなりすぎたりと、どちらかに振り切れてしまいがちで、何度も読み返しては書き直しました。
松田 子どもと大人、両方の要素を盛り込んでもバランスを失わず、嘘っぽくならないのは、12歳の生身の女の子が生活している感覚がしっかり捉えられているからだと思うんです。そういう意味では本当に、島本さんはデビュー作からうまかったんですが、今回また一段上がった感じがします。
島本 ありがとうございます。
松田 たとえば、「夜の道は青や白の街灯が少しだけ淋しくて、だけどその分だけきれいで、私は、もしかしたら淋しいときれいはすごく近いところにあるのかもなあ、と考えながら歩いていました」。本当に12歳の感受性ですよね。
島本 12歳に戻って考えることはできませんが、よく友だちとこんな景色を見たなあとか、きれいな空の色を見ながら淋しいと思ったことがあったなあとか、記憶の中にあるものを辿りながら書きました。
松田 何気ない風景の描写、たとえば「電柱と電柱を繋いだ電線は、暗い空をいくつにも切り分けて月や星をつかまえながら、となりの街へと伸びています」。ここなんかも、僕はすごく好きですね。
島本 東京に生まれ育ったので、雄大な自然を目にするような機会はほとんどなくて、その代わりに、町角のちょっとした風景に感じるところが多いのかも知れません。

生きていくための物語を

松田 ラストシーンの情景描写も、とても印象的ですね。主人公はとてもつらい経験をしたわけですが、作品全体の読後感としては、決して暗くない。『リトル・バイ・リトル』のあとがきに、「ささやかな日常の中にたくさんの光を見つけ出せるような小説」を書きたいとありますが、それはこの作品にも当てはまりますね。
島本 やはり、読む人に向けて何かしらのエネルギーがあふれ出すようなものを書きたいと思うんです。本当に苦しいときや途方に暮れたとき、読んで少しでも力になるようなもの。「生きていくための物語を書きたい」という思いを、書き始めた頃から一貫して持っています。

(まつだ・てつお 編集者/しまもと・りお 作家)
波 2007年9月号より

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