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男色の景色―いはねばこそあれ―

丹尾安典/著

2,420円(税込)

発売日:2008/12/19

書誌情報

読み仮名 ナンショクノケシキイハネバコソアレ
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 255ページ
ISBN 978-4-10-313451-0
C-CODE 0095
ジャンル 日本史
定価 2,420円

男色が、いかに日本の文化をゆたかなものにしてきたかを明確に説きあかす!

光琳〈紅白梅図屏風〉には、隠されたメッセージがある!? 「嬲るという字を絵で描いている」との説なのだが、そもそも「梅」は男色の香を招き寄せる花……万葉集から井伏鱒二、川端康成、三島由紀夫など現代文学まで、また仏画、水墨画、浮世絵などの絵画作品から男色的光景を縦横無尽に引用しながら男色文化を浮上させる奇書。

目次
第一章 「嘆息」
第二章 「連れ鳴く雁」
第三章 「一条の水脈」
第四章 「華苑」
第五章 「そへ歌」
第六章 「礼装」

書評

波 2009年1月号より 入魂には男の匂いがある

青木茂

ちょっと変ったお奨め本が出た。丹尾安典さんの『男色の景色―いはねばこそあれ―』で、丹尾さんは十数年も前から男色と美術あるいは文学についての考察を発表して来た。本人のノートによれば早稲田大学の紀要類二種に四編と、私も関係する学会誌、同人誌に二編とで、いつも「美術史家の研究範囲から逸脱している」とか「新しい分野を切り拓く試論」とか小声で言われていた。が、読んでなんともこの一本は面白い。学術であれ評論であれ読んで面白くない文章が何かの役に立つことはない。
岩田準一の男色研究の後には誰も書きようがない、と思っていたら丹尾さんがいたということになる。昵懇になって四半世紀になるが、この優男(色男でもよい――まさか美少年とはいえないが――)は博覧強記の上に私にはない調査能力があるのがつき合って直ぐに解った。岩田の『本朝男色考』に次ぐ一本が早稲田雑学の掉尾を飾るこれで、世阿弥はもちろん、室町水墨画の賛を拾って五山僧の雛僧・喝食すなわち稚児への恋情の風が吹いているのを感じとる。稚児文殊や裸形大師像に男色盛行時代の色を見る。興福寺の八部衆像のなかにいる、儀軌を外れた阿修羅は天平の典型的な美童であるという。
著者丹尾さんは酒騒道人といい、宴会学教授とも言われるが、私たち(書痴同人)は毎週一回神田神保町の古書街で会合している。その毎度丹尾さんは国会図書館にも大学の図書館にもない太平洋戦争後のカストリ雑誌のひと山を携えて参加している。この時期の雑誌群には言論・発表の自由があるということらしい、天皇制についても男色についても。昭和三十年代初期、上野駅公園口、旧「葵部落」の住民が住むアパートから派手なスカートの一団の「女」たちが洗桶を小脇に嬉々として線路脇の坂道を下っていった、公園へ夜間視察にきた警視総監を襲って袋叩きにしたのは山下の銭湯で昼湯を使った「男」たちであった。まだオカマたちも明朗闊達であった。
丹尾さんは私情をなるべく排除して後庭花、オカマ、菊座について博捜する。梅は花のさきがけであり、菊はしんがりを承り、ともに男色花であることを『国歌大観』から平仮名表記で引用して例証を続ける、例の古今集仮名序の「なにはづに さくやこの花 ふゆごもり いまははるべと さくやこのはな」其他の「この花」は「木の花」か「此の花」かである、ついには筆が滑って「子の花」即ち稚児とまで書いておまけを付けてくれる。
古今集の読みびとしらずの歌「思ひいづる ときはの山のいはつつじ いはねばこそあれ こひしきものを」から男・男間の、光琳の「紅白梅図屏風」「中村内蔵助像」「躑躅図」から男・女間、男・男間の性的な契りを読み取り、ことの序でに水仙やかきつばたも男色花としてのサインを放っているという(私は梅に対する水仙は女色花と思っているが)。この辺りは読んで堪能して貰うよりない。
興の向くまま私は『新潮』に連載(二〇〇八年一月―六月)された初出を読み返しているのだが、実はこの長篇論文は首尾に近現代日本の同性愛関係の記録が集められている。大杉栄と中村彝の兄、会津八一と世良延雄、片上伸と井伏鱒二と青木南八、雑誌『薔薇族』、三島由紀夫と堂本正樹・森田必勝、中原淳一と高英男などなどが、江戸川乱歩、竹久夢二、南方熊楠などなどの言葉で男性間の恋情が語られる。そしてひと先ず岩田準一伝で締められる。男性を好んだ三島は川端康成にも恋した。この書の圧巻は丹尾さんの『伊豆の踊子』紀行というべき文学散歩である。伊豆を旅して丹尾さんは、踊子薫の兄で梅毒をもつ榮吉と私=作者=川端との清冽な交情を発見する。川端には後年『踊子』の後半部となる作品『少年』があるが清野少年と私との床中の同性愛は時とともに自然に切れる。
先に私は丹尾さんと「昵懇」と書いた、じっこんは「入魂」とも書く、入魂には男の匂いがある。

(あおき・しげる 美術史家)

著者プロフィール

丹尾安典

タンオ・ヤスノリ

1950年、東京生れ。早稲田大学第一文学部卒業。専攻は近代美術史。主著に『男色の景色―いはねばこそあれ―』(新潮社 2008)、とんぼの本シリーズ(新潮社)に『パリ オルセ美術館と印象派の旅』(1990)、『こんなに面白い上野公園』(1994)、『洲之内徹 絵のある一生』(2007)があるほか、多数の編著書、論文、評論を発表している。

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