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兄が猛虎になるなら、己はそれを支える龍になろう。信長の弟の激しく孤独な生涯。

信長を生んだ男

霧島兵庫/著

1,728円(税込)

本の仕様

発売日:2017/11/22

読み仮名 ノブナガヲウンダオトコ
装幀 大竹彩菜/装画、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 330ページ
ISBN 978-4-10-351331-5
C-CODE 0093
ジャンル 文学・評論
定価 1,728円
電子書籍 価格 1,382円
電子書籍 配信開始日 2018/05/04

放埒な兄・織田信長に、自分に欠ける資質を見た英邁な弟・信行。それは自らの力を恃んで天下統一を成し遂げようとする覇王の資質だった。しかし、そこに非情に徹しきれない甘さ弱さをも見た時、兄を「非情の王」にするため、弟は身命を賭した絶望的な戦いに出る。大型新鋭が歴史に埋れた人物を全く新たな光で照らす長篇小説。

著者プロフィール

霧島兵庫 キリシマ・ヒョウゴ

1975年生まれ。第20回歴史群像大賞優秀賞受賞を経て、2015年『甲州赤鬼伝』でデビュー。『信長を生んだ男』が二作目となる。

書評

今年最後の大傑作

縄田一男

 私は困ってしまった。
 私は本を読む際、重要だと思われる箇所――テーマやモチーフ、人物造型、群を抜いている情景描写――にふせんを貼りながら読んでいる。
 ところがこの一巻『信長を生んだ男』ときたら、どうだ。ほとんど2ページに1枚の割合でふせんを貼ることになってしまったではないか。
 これが本当に新人の第2作なのか?
 たとえば、群を抜いた情景描写をあげれば、次なる合戦場面はどうだ。

 陽光にきらめく槍の海原が、目前に迫った。
 と、太鼓の一打が空気を震わせる。
 両軍の長柄が一斉に振り上げられた。大きくしなる幾百の槍先が、視覚のすべてを覆い尽くす。

 実に視覚的なすばらしさではないか。
 もっとも作者のすばらしさは、こうした視覚面ばかりではない。人間の心の内面に錨を降ろしていく、その的確さにある。
 そして、これはネタばらしになるので記すことはできないのだが、後半、織田信行が取った行動に私は号泣してしまった。
 さて、この物語は、織田信長とその弟・信行の葛藤からスタートする。その葛藤――いや、確執といった方が良いかもしれない――は、幼少の頃にまでさかのぼる。母親である土田御前の持っていた、尾張に二つとない龍笛――信長は、ねだりにねだってこれを手に入れるが、信行が欲しいというと、母は信長に渡した笛を取りあげ、信行にくれてやったという。信長は、こんな餓鬼の喧嘩を今に至るまで引きずるとは、我ながら愚かしいといいながら、父に認められながらも母の愛に飢えていた思いを、新妻帰蝶へ語る。
 一方、苦しんでいるのは、信長だけではなかった。信行も初陣の前に、「古渡ふるわたりという規律と従順に縛られた牢獄を抜け出た先には違う世界が待っている。父の歓心を引こうと身もだえすることも、母の支配欲に振り回されて苛立つことも、兄への対抗意識に疲弊することも、そして、抑えても抑えても膨れあがる焦燥感を抱えて長い夜を過ごすことも、この小さな世界の束縛から解放されればきっと変わるに違いない」と希望を抱く。
 だが、信行の初陣は悲惨なものとなる。敵将の一人、有沢源九郎の首一つを取るために、信長が自分につけてくれた精鋭50人をことごとく死なせてしまうのだ。
 父は「まずまずじゃな」といままでにないことばをかけてくれるが、信行の懊悩は深い。
 その兄弟2人が車の両輪の如く、織田家を支えていくようになるのは、信行の軍勢が、見事、萱津での戦いにおいて敵勢を抑えてからのこと。柴田権六は信長が弟の信行を、初陣以来、押し殺すような生き方を選び、力ある男がそれを秘し、沼に潜んで天に昇る日に備える伏龍であると、高く買っていると信行へ話す。虎=信長。龍=信行。
 が、信長と親密な関係をようやく築き上げた信行に目立つのは、意外にも、その信長の脇の甘さであった。
 そして、信行は、これを見て、冷酷非情な部分を自らが引き受け、平手政秀を切腹に追い込み、弟の弔い合戦をし、暗殺をも辞さない――それ以来、品行方正で文武両道の貴公子然とした信行が実は誰よりも非情な男であると分かって、誰もよりつかなくなっていく。
 そんな中、信行は父と同じ病に冒されたことを知る。
 己が死ぬまでに兄を最強の男にしなければならぬ。
 そこで信行が権六らと取った手段は――。
 ここからが前述の号泣のくだりとなるのだが、信行が権六らに、
「忘れるものか。お前たちに教わったこと、お前たちが示した忠義、何ひとつ忘れるものか」
 と語るところは、もうたまらない。
 よくぞ書いてくれた、私は作者に心からの拍手を送りたい。
 そして本書には忘れてはならない、もう一つの脇筋のストーリーがある。
 それは帰蝶をめぐるもので、信長にとっては、彼女は母への空白を埋めるもの、そして信行にとっては秘めたる思慕の対象なのである。
 本書は、今年最後の大傑作といえよう。

(なわた・かずお 文芸評論家)
波 2017年12月号より
単行本刊行時掲載

目次

序章
第一章 盟約の日
第二章 謀将前夜
第三章 乱世の掟
第四章 新たな誓約
第五章 宰相の哲学
第六章 張り子の虎
第七章 非情の敵
第八章 なすべきに鳴く
終章

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