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自分はこんな場所にいるべきではない、と思ったことはないか――旅人たちへ贈る“人生の羅針盤”。

いまそこにいる君は―十字路が見える―

北方謙三/著

1,404円(税込)

本の仕様

発売日:2016/06/30

読み仮名 イマソコニイルキミハジュウジロガミエル
雑誌から生まれた本 週刊新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 255ページ
ISBN 978-4-10-356213-9
C-CODE 0095
ジャンル エッセー・随筆
定価 1,404円

十六年の歳月をかけた大長篇小説を書き終えた作家が手にした、一瞬の静寂。しかし、迸る情熱と尽きせぬ好奇心は、彼を解放してはくれなかった。「おい、変わってみないか。私は、やるぞ。違う場所で、違う顔になる」……出会いと別れ、映画と音楽、旅と酒。また新たな十字路を目指す著者が、縦横無尽に人生を語る痛快エッセイ。

著者プロフィール

北方謙三 キタカタ・ケンゾウ

1947(昭和22)年、佐賀県生れ。中央大学卒業後、1970年に『明るい街へ』でデビュー。1981年の『弔鐘はるかなり』で脚光を浴び、1983年『眠りなき夜』で日本冒険小説協会大賞、吉川英治文学新人賞受賞。1984年に『檻』で日本冒険小説協会大賞、1985年『渇きの街』で日本推理作家協会賞を受賞。1988年から歴史小説にも挑み、1991(平成3)年『破軍の星』で柴田錬三郎賞受賞。2006年、『水滸伝』全19巻で司馬遼太郎賞を受賞。2007年、『独り群せず』で舟橋聖一文学賞を受賞。2010年、日本ミステリー文学大賞受賞。2011年、『楊令伝』全15巻で毎日出版文化賞を受賞。2016年、『水滸伝』『楊令伝』に続く『岳飛伝』全17巻を完結し「大水滸伝シリーズ」全51巻が完成。2017年、断たな大河小説『チンギス紀』の連載を開始した。

目次

第一部 冬行き暮れて
また君と歩こうか
時には格闘家の気分になって
私は血の涙を流したことがない
もうヤクには手を出さない
うむ音痴ではなかったぞ
学生であることが恥ずかしかった
出るものを出しきればよかった
恋人が百人いてなぜ悪い
ああ幻のライブに泣いた
若いころできたことを忘れたい
第二部 春散る日々
苦手なものがあるのが人間だ
寂しいと言ってみてなんになる
袖の下になにかが見える
白き手を白いと思うなよ
男二人がサングラスをかけて
イタリア人だったこともある
パイプ削りも文筆修業だった
いつかピアノを弾いてみたい
貧乏爺ちゃんは今日も往く
同情を受け入れる時も来る
記憶の連鎖は快感なのだ
いつかどこかで勝新太郎
男の人生は見果てぬ夢か
第三部 夏独り追われ
背をむけた世間のむこうに
ここでは書けない歌詞の話
ふと昔をまさぐってみただけだ
ふるさとは遠きにありてなのか
無垢なるものを勝手に人は欲する
犬が独り言を聞いてくれた
寂しいと言っても仕方がないな
たまにはいいことを書いてみたい
実験なのか冒険なのか
深く静かにとは考えなくてもいい
運でもなく技術でもないなにか
日本人は日本人らしく生きろ
いつか磨くものを見つける
第四部 秋よりも遠く
人生の講釈は任せてくれ
観たいものを観たいはわがままか
長すぎる物語などないのだ
言葉が言葉以上のものになる時
いつも心に描きたい絵がある
時代が天才を作ったのか
朽ち果てずに絵はそこにある
純粋だと消えるしかないのか
いつか天国で宴をやろうよ
君も私も男であり続けようぜ
不器用だけの人生もまた
強い男伝説の村に生まれて
さあこれから蒔き直しだぞ

インタビュー/対談/エッセイ

【インタビュー】北方謙三が訊く! 本当に「見たい」映画を見つける5つの方法

北方謙三原武史

 週刊新潮の連載エッセイが『いまそこにいる君は―十字路が見える―』として刊行される。主たるテーマは北方さんが体験してきた出会いと別れだが、映画、音楽、小説の思い出も多く描かれている。中でも一番多く登場するのが映画。それもハリウッド大作系の作品ではなく通好みの名作ばかり。しかしそこが問題で、見たいと思った作品でもVHSテープが廃盤になったり、DVD化されなかったりすると二度と見られない状況に――。彷徨える古い映画好きは、どうしたら本当に見たい映画を見つけることができるのか。

」編集部(以下、波) 原さんにお越しいただいたのは、北方さんが普段から映画をTSUTAYAさんでお借りしているから、ということですね。
担当 ええ、それで「でも、あの映画がTSUTAYAに置いてないんだ!」といつも愚痴っていらっしゃって。
北方 今日は教えを請いたいだけです。映画はね、小学生のころから大好きです。佐賀県唐津って田舎にいて、町へ行かないと映画館なんてない。たまに公民館に茣蓙が敷かれて、アラカンの『鞍馬天狗』が上映されたりしていました。中学にあがるころ東京へ来て、あるとき神谷町を歩いていると、真っ赤なオープンカーがキュッと隣に止まってね。サングラスかけたヘンな兄ちゃんが「おい坊主、サインしてやろうか」。見ると石原裕次郎。
 す、すごい!
北方 言われるままに代数のノートを出してサインをもらった。何かを話しかけようとしたら信号が青になってしまって、「じゃあな」と去っていってしまったけど、ものすごくかっこよかったよ。あのノート、「落書きするな!」とか言われて教師に取り上げられたんだよな。

1.リクエストし続ける

 ご覧になる映画を選ぶときの基準はありますか?
北方 映像でしか表現できない、心を掴まれるようなシーンのある作品が好きです。『グレート・ビューティー/追憶のローマ』という作品が、えっと何だっけ、でっかいおっぱいの女優が出てた……。
 『甘い生活』のアニタ・エクバーグですか?
北方 そう、イタリア映画なのにイタリア女優じゃないんだよな。一九五〇年代のアメリカの「プレイボーイ」のグラビアを見て、「なんだこの胸は!」と仰天しましたよ。どう考えても重力の法則に反しているんだもの。ボーンと前に張り出て、ウエストがキュッキュッとしてて、またグワッと盛り上がってさ、それで下のヘアはブワーッとあって。
担当 先生、擬音しか言ってません(泣)。
北方 「うわー」って興奮したよ……何の話だっけ? そうそう、あの映画は第二の『甘い生活』って触れ込みだったけど、やはり昔の映画とは質感が違う。古い映画というのは、いまの映像に慣れてしまうとガマンしなくてはいけない部分が多い。音質とかテンポとか。でも、それを乗り越えてじっくり見ていると、シーンの中にいいところが滲み出ているように感じます。そう言えば、アニタ・エクバーグが肥ったおばちゃんになったのを、マストロヤンニとフェリーニが訪ねていく映画もあったな。
 フェリーニの『インテルビスタ』ですね。エクバーグが鯨みたいになって、昔の自分のフィルムに涙ぐんだりする。
北方 女優で映画を選ぶわけじゃないんだけど――映画というのは見るたびに発見がある。僕はフィリップ・カウフマンの『存在の耐えられない軽さ』を三回見たんです。ジュリエット・ビノシュが演じる自分勝手な女が本当に嫌いでね。すると三回目にものすごい発見があったんです――ジュリエットのワキ毛がボーボーなんですよ!(笑) そういう細部まで発見があるような作品ほど、なかなかDVDが見つからないんです。
 廃盤になってしまった作品に関して、TSUTAYAでは「発掘良品」というレンタル限定のシリーズと、「復刻シネマライブラリー」といって海外の配給会社と交渉して、日本国内では入手できない名作を受注製作でDVD化するという企画をやっています。
 この間、DVDのない『カリフォルニア・ドールズ』が日本最終上映という謳い文句でかかっていて、思わず映画館に駆けつけたのですが、翌月からTSUTAYAさんでレンタルされていました。そういうことだったのね、と(笑)。
 あれは、「発掘良品」のスタッフが五年間メーカーと交渉を続けて、やっとDVD化できた作品です。ずっとリクエストの上位にランクインしていた作品だったので、お客さまとスタッフの粘り勝ちですね。
北方 えらい! 僕もリクエストがいろいろ……(分厚い手帳を取り出す)。

2.お金が解決する問題もある

北方 昔見た『クリシーの静かな日々』って、ヘンリー・ミラー原作の映画をどうしても見たくなって、TSUTAYAを探してもない。そうしたら知り合いが「ありました」って送ってくれたけど、九〇年代に撮られたリメイク版。「アメリカにありました」と送ってきたものは、字幕が入ってないからやっぱり見られない。ネットで探したら、VHSがオークションで十何万もしてました。
 レンタル作品の仕入れロットは最小で何本くらいですか? 北方さんが何枚購入すれば、商品化してくれますか?
 全国に一四五〇ほど店舗がありますが、レンタルだと最低各店舗一枚、つまり一四五〇枚ほどでしょうか。その枚数をそろえていただければ、レンタルのラインナップに加えることができるかもしれません。新品のDVDが大体四〇〇〇円くらいなので、商品代が五八〇万。また「復刻シネマライブラリー」シリーズで商品化するとなると、一店舗最低三枚は売りあげて欲しいので五〇〇〇枚ぐらいですかね。つまり二〇〇〇万円ほど。
担当 ですって、北方さん。
北方 ふむ。

3.SHIBUYA TSUTAYAへ行け!

北方 レンタルでもセルでも見つからないけど、絶対見たい映画が二本あるんです。一つはジャン・ポール・ベルモンドが出ている『ライオンと呼ばれた男』。これが、どうしてDVD化しないのか分からないくらいいい作品なんですよ。もう一本は『過去をもつ愛情』。どうして見たいかというと、この中でアマリア・ロドリゲスが歌う「暗いはしけ」が聞きたい。ファド風に歌っているんだよ。
 フランソワーズ・アルヌール出演のメロドラマですね。渋谷店でVHSがレンタルできますよ。先程の『クリシーの静かな日々』と『ライオンと呼ばれた男』も渋谷店にVHSがあります。
北方 え、そうなの!? でも、VHSを再生する機械がもうないんだよ。そのためだけに購入するのも業腹な……。
 渋谷や新宿といった大型店舗ではVHSプレイヤーもレンタルしております。
北方 やっぱりいるんだな、そういう人。
 僕は、一九九九年のオープンから三年間渋谷店に勤務していて、その頃売り上げの大部分を占めていたのがVHSのレンタルでした。その豊富な在庫が一部現存しているんです。
 エドワード・ヤン初期の傑作『●嶺街クーリンチェ少年殺人事件』のVHSは、日本で新宿TSUTAYAにしかもはやないと聞いたんですが……。
 いや、大丈夫です。新宿だけでなく渋谷店にもあります。
北方 イギリス映画で『司祭』って……。
 あります(即答)。
北方 あなたは素敵な人だ(笑)。

4.自分のコンシェルジュを見つける

北方 ちょっと、原さんのお仕事について教えてくださいよ。
 レンタル部門でどの映画を仕入れるか、売り場をどう展開するかを決定する部署で働いています。各ジャンルの担当者は、ほとんど起きているすべての時間を使って担当ジャンルの作品を見ていますね。
北方 僕はこれまで、自分がエッセイで映画の事を書くとは全く思っていなかったんです。映画への熱が再燃したのは二年ほど前で、いい映画を教えてくれる「先生」を見つけたからです。僕はもうあまり長く生きないからね、つまらない映画を見て時間を無駄にしたくないんですよ。その人が薦める映画は絶対にハズレがない。
 映画配給会社関係の方ですか?
北方 あまり配給会社の言うことは信用しません。この間「先生」に薦められて見たのは『フローズン・リバー』。三回泣いた。
 プア・ホワイト女性のハードボイルド。すばらしいですよね。僕は入社からずっと、日記代わりに一年間に見た映画のベスト10を記録しているんですが、『フローズン・リバー』もランクインしてます。六本木店や代官山店などには映画コンシェルジュがいて、お客様の好みに合いそうな作品をお薦めしています。北方さんがエッセイに書いていらっしゃった『セッション』『ノー・マンズ・ランド』も僕のランキングにも入っているので、もしかしたら、僕は北方さんのコンシェルジュになれるかもしれません(笑)。今年だったらオスカー主演女優賞の『ルーム』と、カンヌでグランプリを獲った『サウルの息子』がいいですよ。『ルーム』は今のところ、二〇一六年のベストですね。
北方 薦められて見た中では『ブラック・スネーク・モーン』もよかったな。サミュエル・L・ジャクソンがクリスティーナ・リッチを鎖でしばる話。
 サミュエル・L・ジャクソン! 僕が映画にはまったきっかけは、ふらっと入った映画館でかかっていたタランティーノの『パルプ・フィクション』で。
北方 あのサミュエル・L・ジャクソンもいいよな。タランティーノがお好きだったら、サム・ペキンパーなんかはどうですか?
 大好きです! あのスローモーションとか。最高にカッコいいですよね。
北方 タランティーノの『ジャンゴ』は、絶対影響受けてるよね。あれもサミュエル・L・ジャクソンが出てる。
 SLJ、「スター・ウォーズ」にも出てるし、よく働いてますね。僕は『アンブレイカブル』以来、SLJがトラウマで。
 タランティーノの新作『ヘイトフル・エイト』のSLJもいいですよ。

5.それでもダメなら、自分で作る!?

北方 原稿では文句ばっかり書いてるけど、TSUTAYAさんはいろんなチャレンジをしているよね。「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2016(通称・TCP)」とか。映画の企画を募集するだけでなく、五〇〇〇万円製作費を出すという。
 エッセイでご紹介下さり、「続けていくことが大切だ」と応援していただきました。企画の出発点は、二〇一三年の東京国際映画祭の「映画は完成したけれど」という自主制作映画関係者を集めたシンポジウムです。いま映画を完成させても、上映してくれる映画館がないんですね。映画を創ってくれる、才能ある人たちが世に出て行けるシステムを作らなければ、僕たちの会社も将来的に立ち行かなくなりますから。
北方 立派! 五年続けることができれば、一流の才能が出てきますよ。
 昨年は四七四本の応募があり、最終的に残ったのが三本です。
北方 僕も応募しようかと思ったよ。文学賞もそうですが、受賞しないものにも素晴らしい才能がある。そういう才能は、絶対に世に出てくる。日本のグザヴィエ・ドランを発掘してください。
 ドラン、本当に若き天才ですよね。
北方 見たい映画が見られないって、切ないんですよ。その意味でTSUTAYAさんは最後の砦なんです。
 結局は、北方さんのように見たい映画をしっかりと記憶にとどめておくことが、一番いい方法なのかもしれませんね。
(後記 『過去をもつ愛情』は今夏、HDリマスター版がDVD化される予定)

(きたかた・けんぞう 作家)
(原 武史 アドバイザー/TSUTAYA映像ユニットレンタルチーム)
波 2016年7月号より

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