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生きるための辞書―十字路が見える―

北方謙三/著

1,870円(税込)

発売日:2020/02/19

書誌情報

読み仮名 イキルタメノジショジュウジロガミエル
装幀 新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 週刊新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 348ページ
ISBN 978-4-10-356215-3
C-CODE 0095
定価 1,870円

かつて「小僧ども」だった、すべての「君」へ。息苦しい時代を悔いなく生きる極意を満載した決定版!

数多の若者を勇気づけ、感動を与えた伝説の青春相談から二十年。歳月を経た今だからこそわかる、家族の情、友の痛み、旅の意味がある。そして、何時も色あせない映画と音楽があった。寿司屋での作法から、孫の育て方、そして友との別れ方まで……“ほんとうに生きる”ために必要なヒントを集約した「北方ダンディズム」の集大成。

目次
【旅】また行きたくても、行けない場所
・原野に祈りを見つけて歓喜したのだ
・北へむかえばきっといいことがある
・やつが唄えばどんな風が吹くのかな
・行けなくなった土地を思い浮かべる
・腹を鍛えれば行ける土地であってくれ
・街の底にこそ見えるものがある
・行く価値のある場所はいまもあるぞ
・街の底になにがあるのか見てみたい
・旅の音が聴こえてくる時もあるのだ
・思い出すのはいいことに違いないのだが
・旅の空と呟いてただ笑ってみようか
・眼でものを言う文化もあるのだよ
・水害の脇を通り抜けてしまった
・昔できたことが忘れられないのだ
・気がむいて北に流れてみたけれど
【食】うまさの秘訣は遊びと冒険
・八点鐘は心のなにを呼び覚すのだろう
・寿司屋でほざく客は人迷惑だというのか
・食べてみればわかるものは食べるのだ
・夜空を見て昔を思い出してしまった
・肉を食う前に命のことを考えるか
・気候も海もやはりちょっとおかしい
・甘ければいいだけの人生ではなかった
・待つだけでいい時だってあるのだ
・なんであろうと当たればいいと言うか
・いつか必ず新しいものを見つけてやる
【躰】老いと闘い、逃げて勝つ
・これが自分だと言えるものがあるか
・言われなくてもわかっていることだ
・虫と闘っている間はまだましさ
・頭頂は保護しなければならないのだ
・時には自分の姿を見つめてみよう
・積もるほど雪が降ると思考が停止する
・加齢が与える痛みは耐えるしかない
・たるんだ顔の肉を髭で隠す姑息
・六十五歳以上はきっと悲しいと思う
・どんな虫だって命は命と思うけれど
【観】心を保つために必要なもの
・新しきを知ることになるのかな
・ある日思い出した映画を観てみる
・映画館のある風景がなつかしいのだ
・音楽はまず音を楽しめばいいのだ
・台風熱だとやりすごしてしまった
・退屈な真実もあると教えられた
・人は人生に監禁されているようなものだ
・音楽もスポーツもやはりライブだな
・私の才能はかたちになっているか
・叫びより遠い日々がいつも蘇るのだ
・意表を衝く映画を教えてくれないか
・壮大で緻密な映画を求めているのだが
・言葉は聴き取るためにあるのだ
・感じた通りが正しいと思えばいい
・表現者はなにを観た時伸びていくのか
・悲しき男が背を曲げて消えていった
【想】ソープという言葉がひとり歩きしている
・流儀があるやつとは喧嘩しないことだ
・理想など刹那の幻影にすぎないのだ
・信じるのは自分だけで充分なのだ
・暴力だと自覚しただけまだましなのか
・いま書きつつある物語のために
・ひとり静かに唄っていたいものだ
・人生の黄昏になにを見ていればいい
・男は心の無人島を求めるのだ
・安全装置のある人生なんて蹴っ飛ばせ
・昔言った言葉が蘇えると心が疼くよ
・ここにいるのがちょっと違ったのか
・昔からこわいところがある
・日本人だから日本語を遣おう
【刻】甘く、どこかはかない思い出
・街を歩けば懐かしさが見えてくる
・横浜にあったものはどこに消えた
・心に張りついたセピア色が蘇える夜
・マリーがいた街の波止場の別れ
・どこかで友だちと懐かしさが呼んでいる
・恰好いい昭和の俳優とよく喋った
・懐しいものが消えているのも人生か
・大鵬がいて柏戸がいたなあ
・されど時計と思った日に買ったのだ
・観る方がいいのか出る方がいいのか
・自然と言っても人の手は必要なのかも
【家】歳をとるのも悪くない
・歩き続けていてなにが見えてくるのだ
・マギーが来たのでもう帰ろう
・家族の光景が遠くなりつつある
・自分の存在が絶対だとは思うまい
・歳をとっていいことがあったりする
・ある日うつむいている自分がいる
・涙でも嘆息でもない相棒がいるのだ
・路傍で声をあげていたかもしれない
・やがて人生の黄昏の友になってくれ
・時々思い出す愛しいやつらがいる
・トロ玉の消えて悲しきわが老年の日々
・法螺貝は大きい方がいいに決まっている
【友】人生のどこかには、こんな再会がある
・いつか彼が光になる日に
・いつか年刊になるという誓いのむなしさ
・忘れていたことを思い出す夜もある
・鏡の中の自分とどちらが早撃ちか考えた
・妖怪のような作家が何人もいたな
・嗤っているやつがいても仕方がないか
・いなくなってもそばにいるのが友だちだ
・懐かしき友の声が聴こえてきた
・会わないより会う方がいいと思った
・歳月は友情の中になにを作り出すのか

書評

拝啓 北方謙三様

谷原章介

 僕が謙三さんの存在を認識したのは、女の子に興味全開だけれどもそれを周りに悟られたくない多感な中学生の頃。あの頃の僕は、男というものをどう確立すれば良いのか悶々としておりました。
 そんな時出会ったのがあの雑誌の悩み事相談のコーナーでした。雑誌が出る度に同級生と回し読みしながら「偉そうなおっさんだ!」「カッコつけてんな〜」などと言いながらもまっすぐに僕らに向き合ってくれる言葉を、楽しみにしておりました。
 著作も多々読ませていただきましたが、中でも夢中になったのは三国志、水滸伝、楊令伝、チンギス紀などの中国を舞台にした作品群です。
 あの雄大な地を馬にまたがって駆け巡る魅力的な男たちのその生き様に痺れ、食べたことのない美味しそうな料理によだれを垂らし、友との別れに涙する。これに何度もやられました。
 初めてお会いしたのはあるイベントでしたね。僕はいささか緊張しておりました。本当はどんな方なんだろうと。
 お悩みコーナーの言葉は乱暴だけど頼りになるおじさん。メディアを通したイメージは無頼漢。三国志シリーズから感じるのは男臭さと侠気。ハードボイルドで手強そうだなと正直少しびびってました。
 ところが実際にお会いしてみれば、なんと可愛らしい方なのか。とにかく良く喋り楽しそうに笑う。生きていることを楽しんでるのがとてもよく伝わってきます。僕は照れ隠しのしかめっ面と笑顔のギャップにハートを掴まれました。こんなことを言うと怒られるでしょうか。それともちょっとはにかみながら「そうか、俺は可愛いのか」なんて言うのでしょうか。
 イベントは謙三さんのユーモアと博学ぶりに大いに盛り上がりましたね。サービス精神が旺盛で、照れ隠しに「私には北方菌というのがありまして、これに感染すると本を何冊も買ってしまうという厄介な菌です。残念ながら皆さんは感染してしまいました」などといってみなさんを笑わせてました。僕も感染者の一人です。
 後日、改めて飲みにいきました。とても楽しい夜でした。本作の中でも仰ってますが、謙三さんは行く先々のお店で本当に良く人と話をされます。いや、訂正します。店員さんやお客さんに絡みまくります。一緒にいるうちに、これも一つのコミュニケーションなのだと得心しました。
 無理難題とはいいませんが、相手からしたら一見答えに窮するような問いかけや、難しいオーダーをしたりしても誰も嫌な顔一つしないのは、その根底にある人に対する愛情と、謙三さんがお持ちの愛らしさゆえだと思いました。
 同席された女性に対して僕が言ったらセクハラになるような言葉を発せられても、みんななぜだか嬉しそうにしてる。男からも女からも圧倒的にモテる。アラン・ドロンではなくゲンズブールといえばよいのか。単なる見た目の良さだけではなく無骨さと愛嬌が同居するその魅力に皆やられるんでしょうね。もちろん外見も渋くて素敵なのですが。いつか僕も素敵な女性に「お前抱かせろ」なんて言ってみたいものです。今度コツを教えてください。
 この辞書では、様々な切り口で謙三さんの人生や思考、出会いが語られ、人間性が浮き彫りになります。
 印象的なのは行く先々の秘境で毎度訪ねる娼婦宿。金は払うが抱きはしない。マッサージをさせたり、写真を撮ったり。そこにあるのは人間に対する純粋な好奇心なのでしょうか。

写真
十字路が見える」は「週刊新潮」にて好評連載中。毎週手書きの原稿が届き、連載は今月で300回を超えた。

 謙三さんと僕が育った横浜にも黄金町という街がありました。大岡川のそばにあったかつての青線地帯は、一間ほどの小さな店の軒先に、ピンク色の灯がともってました。灯りが消えている時は客を取っているかおやすみ。街を歩いている男たちはなぜかお互いににこやかなんです。それは今夜の期待感から来るのかはたまた後ろめたさからか。今ではその街も再開発されてなくなってしまいました。日本のそこかしこに有った、米軍が駐屯していた時代もたくましく生き抜いた人たちの気配があった街。臭い物に蓋をするように、そこで暮らした人たちの痕跡は覆い隠されました。でも、僕の中にはあの川面に映ったたくさんのピンクの明かり、レトロな看板、街の風情は消えずに残ってます。とても綺麗だった。あれも横浜の一つの側面でした。

 この本は読めば読むほど、謙三さんと一緒に時間を過ごしたくなります。ガイドブックに載らない旅をして、日に焼けながら船で釣りをし、レモンと散歩しながら歩く速さを競い、共に映画を見て感想に花を咲かせ、ごうちゃんレストランでごうちゃんをからかうのをたしなめながら笑い、ライブ会場で歌詞に詩情が無いと嘆く。ただ一つできないのは、謙三さんが友と過ごした時間を味わうこと。たくさんの方と出会い、別れ、すれ違い、そして再会する。その一つ一つが北方謙三を作ってきた。願わくば僕もその末席に加えていただきたい。
 謙三さん、今度僕が一番好きな映画の話、聞いてくださいね。行きつけの横浜のジャズバーで!

(たにはら・しょうすけ 俳優)
波 2020年3月号より
単行本刊行時掲載

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著者プロフィール

北方謙三

キタカタ・ケンゾウ

1947(昭和22)年、佐賀県生れ。中央大学卒業後、1970年に『明るい街へ』でデビュー。1981年の『弔鐘はるかなり』で脚光を浴び、1983年『眠りなき夜』で日本冒険小説協会大賞、吉川英治文学新人賞受賞。1984年に『檻』で日本冒険小説協会大賞、1985年『渇きの街』で日本推理作家協会賞を受賞。平成元年から歴史小説にも挑み、1991年『破軍の星』で柴田錬三郎賞受賞。2006年、『水滸伝』全19巻で司馬遼太郎賞を受賞。2007年、『独り群せず』で舟橋聖一文学賞を受賞。2010年、日本ミステリー文学大賞受賞。2011年、『楊令伝』全15巻で毎日出版文化賞を受賞。2013年、紫綬褒章受章。2016年、「大水滸伝」シリーズ全51巻で菊池寛賞を受賞する。2020年2月現在、壮大なスケールでチンギス・カンの生涯を描く『チンギス紀』を連載中。

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