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日本に新・女人国家誕生。うわーっ! 純文学の孤高守護神が贈る最高傑作!

水晶内制度

笙野頼子/著

1,836円(税込)

本の仕様

発売日:2003/07/31

読み仮名 スイショウナイセイド
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 268ページ
ISBN 978-4-10-397604-2
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品、文学賞受賞作家
定価 1,836円
電子書籍 価格 1,469円
電子書籍 配信開始日 2013/05/17

原発を国家の中枢として日本から独立した女人国ウラミズモ。亡命作家は新国家のため創作神話を書くが……。高校では「ロリコン」男が飼育され、男性保護牧場では美男だけが生き延びる!? 家畜人ヤプーから出雲神話、児童ポルノ規制法案等、古今東西の名作・迷作を友とし敵として、自由も倫理も性愛もない女の楽園を描く平成の「奇書」。

著者プロフィール

笙野頼子 ショウノ・ヨリコ

1956年、三重県生まれ。1981年、『極楽』で群像新人文学賞受賞。1991年、『なにもしてない』で野間文芸新人賞受賞。1994年、『二百回忌』で三島賞、『タイムスリップ・コンビナート』で芥川賞、2001年『幽界森娘異聞』で泉鏡花文学賞を受賞。著書に『居場所もなかった』、『硝子生命論』、『レストレス・ドリーム』、『増殖商店街』、『母の発達』、『パラダイス・フラッツ』、『太陽の巫女』、『東京妖怪浮遊』、『説教師カニバットと百人の危ない美女』、『笙野頼子窯変小説集 時ノアゲアシ取リ』、『ドン・キホーテの「論争」』、『てんたまおや知らズどっぺるげんげる』、『渋谷色浅川』、『愛別外猫雑記』、『S倉迷妄通信』など。

書評

波 2003年8月号より ゆらぐ場所に立ち続ける  笙野頼子『水晶内制度』

小谷真理

 いきなりこの場でカミングアウトさせていただくが、実はわたしは、フェミニストである。そんなのいまさら意外でもなんでもない、と笑われるかもしれないが、いたって、わたしはマジメである。というか、本書を読んでいると、自分の今立っている場所がとても気になってくる。
フェミニズムやフェミニストというタームは、いまだに波乱含みである。たとえば、フェミニストだよと名のると、これがじつにさまざまな反応のオンパレードをまきおこす。
史上最悪の穢れたものに出くわしてしまったといわんばかりに、硬直したまま引いてしまう人々。おお汝は同志よ、と抱きすくめてくれる女性たち。さあ、知的な会話を始めよう、と構える学生。え、フェミニズムって終わったんじゃなかったの? という顔をする自称進歩的知識人。硬直した人からは硬直したイメージしかかえってこないし、インテリからはインテリめいた反応が返ってくる。ようするにフェミニズムに対するイメージが、その人自身の性格をまことにもってよく反映しているということなのだ。女性が女性の視点から世界を見ていたい、女性自身で考えたい、それにはどうしたらいいか、という意思表明にすぎないのに、それをひとたび「フェミニズム」と呼ぶが早いか、たちまち台風が吹き荒れる。もともと反女性蔑視というところから出発しているから、名乗っただけでなにかを攻撃しているものと勘違いして、いきなり激昂した態度で身構え、自己防御に走るというわけか。冷静に考えると、黄色人とか黒人とかいった巨大なカテゴリー同様、その複雑な歴史性と現実性を反映した個性についても、十把一からげというわけには、いまさらいかないと思うけどね。
ただし、男社会がイヤでどうにかならんかなと思いつつ、フェミニズムと呼称されているゾーンに入り込むと、それはそれで厄介だ。最低でも千差万別の女性の数の問題点から出発しているわけだから、ケースバイケースで理解できても、全体的には矛盾だらけ(あたりまえ)、女性内部のさまざまな差異がさまざまに展開し、頭がぐるぐるしてくる。いっそのこと、そういうものと縁を切って平穏に暮らしたいと思っても、性差は世界全体に深く食い込んでいて、逃れることはできない。そんな立ち位置のなかで、女性作家が女性であることを起点にものを創造するとは、どういうことなのか?
本書は、右のような現状をシリアスかつユーモラスに考察したユニークな女性ユートピア小説。日本の男社会で抑圧されていた女性作家が、日本国家から分離独立した女性国家ウラミズモに迎えられ、日本神話を産み直す。いわば、女性ユートピア小説という思索小説のスタイルによって、女性表現者の意識の流れを巧みに描き出していくのだ。
『居場所もなかった』をはじめ、ひたすら現代社会で自らの立ち位置を執拗に追いかけ思考してきた著者の今度の居場所探索は、フェミニズム内部へ向かう。といっても、ウラミズモは女性国とはいえ、女性運動のなかにあるファナティックな気質を結晶化した一種のカルト国家の体裁をもつ。この気質は、既存の社会不公平に対する怒りを根底に抱く女性運動のなかでも、もっとも爆発的な破壊力を発揮する反面、もっともコントロールが難しい短絡的な部分でもある。人によっては必要悪とうそぶくかもしれないが、まさにそれを内包するフェミニズムにとっては、核兵器とうらはらの原発みたいな特質なのだ。
怒りは共有できても、それを起点とする社会は、おぞましいシステムに満ち満ちている。情緒的には気持ちよくても、目をそらしたくなるような残虐な闇を秘めている。そんな女性ユートピア社会だが、しかし、男社会である日本社会はもっとイヤだ。こんなふうに、おそらくマジメであればあるだけアンビバレンツを引き受けざるをえなくなるところに、ウラミズモがユートピア性とディストピア性に引き裂かれているゆえんがある。主人公は、それでも苦悩しながら、日本国家から分離独立したウラミズモのなかで、創世神話を創造する。そのプロセスに、ヒルコを産み火の神を産んだ、かつてのおぞましき出産神話のただなかにたたされるイザナミの再解釈が、重なっていく。
伊勢、京都、東京と、これまで著者の仕事が日本という国の都を女性の立場から再構築していくものであったと喝破したのは文芸評論家・清水良典であった。この線で行けば、本書における笙野頼子は、出雲神話をターゲットに、日本の歴史の本流からスリップした神話を緻密に再解釈したうえで、現代のルサンチマン的フェミニズムの怨念が沈殿する時空間すなわちウラミズモを構築したものと、確信される。
あの独特の笙野節を得て、痛烈で軽快な語りが炸裂する。屈折したユートピアであるウラミズモが、記憶すらひずみかねないおぞましき属性を隠蔽していること、ショッキングきわまりないものの、どこか愛らしさを残していることなども興味深く、錯綜した展開のさなかより、時折さわやかな風が吹く。日本女性文学の最前線に位置する傑作だ。

(こたに・まり 文芸評論家)

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