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なぜ、日本だけなんだ? どうして死に急ぐのか――。

チャンキ

森達也/著

2,640円(税込)

本の仕様

発売日:2015/10/30

読み仮名 チャンキ
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 556ページ
ISBN 978-4-10-466203-6
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 2,640円
電子書籍 価格 2,112円
電子書籍 配信開始日 2016/04/01

強烈な自殺衝動によって突然死する「タナトス」という不条理な死が蔓延する2033年の日本。日常に理不尽な死が充ちている。なぜ、日本だけに? この世界はどうなっているんだ? どうしたら生き延びることができるのか? 生きる意味と実感を求めて抗う、18歳の高校生チャンキに見えてきたのは……気鋭の映像作家、初の長編小説。

著者プロフィール

森達也 モリ・タツヤ

1956年、広島県呉市生まれ。映画監督、作家。明治大学情報コミュニケーション学部特任教授。テレビ・ドキュメンタリー作品を多く制作。1998年、オウム真理教の現役信者を被写体とした自主制作ドキュメンタリー映画「A」を公開。ベルリン映画祭に正式招待され、海外でも高い評価を受ける。2001年、映画「A2」を公開し、山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞する。著書に『A3』(講談社ノンフィクション賞)『下山事件』『東京番外地』『オカルト』『死刑』『すべての戦争は自衛意識から始まる』『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『「テロに屈するな!」に屈するな』など多数。

森達也公式サイト (外部リンク)

書評

小説家森達也の鮮やかな大作

佐々木敦

 日本で最もアクティヴかつアクチュアルなドキュメンタリストである森達也は、『ドキュメンタリーは嘘をつく』という著書もあるように、真実と現実と事実を追究しながら、同時に嘘と虚構とフィクションに一貫してこだわってきた。というよりも、彼にとっては、通常は対立項と捉えられている右の二項のそれぞれは、同じものの両面なのだ。『チャンキ』は、そんな森が書いた長編小説である。
 舞台は近未来(あるいは並行宇宙?)。日本/日本人は、突然、猛烈な自殺衝動に襲われ、自らを死に至らしめるまで決して止められない「タナトス」という原因不明の病(?)によって、絶滅の危機に瀕している。タナトスは一度でも日本国籍を持った者であれば、誰もが発症し得る。いつ発症するかは誰にもわからない。治療法は不明。一旦発症して自殺を免れた者はいない。国外に脱出しても、日本人であれば免れることはない。発症率はどんどん上がっている。日本はもともと自殺者が多い国だったが、今では毎日物凄い数の自殺者が出ている。その結果、人口は激減し、在留外国人たちは帰国し(今のところタナトスは「日本人」しか罹らないのだが、メカニズムがわからないので、諸外国は日本に同情しつつも疑心暗鬼になっている)、国内は絶望と無気力と刹那的な欲望によって荒廃している。いうなれば日本という国自体が、ゆっくりと自殺していっているような状態だ。
 しかし、そんな日本にだって若者はいる。主人公チャンキは地方都市に住む高校生。彼のクラスも日増しに数が減っている。タナトスは時と場所を選ばないので、友人の陰惨な死に様を見てしまうことだってある。何よりも、自分自身がいつタナトスに襲われるやもしれない。だが、それでもチャンキは青春真っ只中である。柔道部の試合に一喜一憂し、ガールフレンドの梨恵子といつ舌を入れるキスが出来るか、いつそれ以上に進めるかに気を揉み、大盛りラーメンに舌鼓を打つ。ティーンエイジャーの行動原理は基本的に変わっていない。
 この小説のユニークな点は、設定の異様さと、そこに込められた現在の日本社会への、ひいては日本/人なるものへの根底的な批判意識にもかかわらず、エピソードやディテールの次元では実に真っ当な青春小説の体裁を取っていることである。しかもそこで描かれる「青春」には、明らかに昭和の薫りが漂っている。おそらくここには、他でもない作者の森達也自身の青春時代の想い出が、多少とも影を落としている。ディストピア的想像力とノスタルジーが奇妙に共存していることが、大きな特徴だと言える。
 チャンキと梨恵子は、ひょんなことから、行政から見捨てられたゾーンであり、誰もが(その理由も未詳なまま)忌み嫌って足を踏み入れようとしない、一種の“悪所”である「カメ地区」に赴き、そこで共同生活を送る外国人グループと知り合う。彼らはそれぞれの事情で日本に留まることを選択した人々だった。このあたりから物語は急展開する。チャンキの高校の休職中の老教師で、言動の怪しさのせいで奇人扱いされている「ヨシモトリュウメイ」の意外な正体、カメ地区に行ったせいでチャンキが見舞われる誤解、外国人グループの失踪など、卓抜なストーリーテリングに乗せられて、大作と呼んでいい長さを一気に読み通させる。正直、作者名を伏せたら、あの森達也の小説だとは誰もわからないのではないか。この意味で本作は、小説家森達也の鮮やかなデビュー作と言っていい。
 だが、それと同時にもちろん、われわれはこの作品が「あの森達也」によって書かれたものだと知っている。実際、これは彼がこれまで相手取ってきた「日本」への痛烈にして痛切な哀悼の書である。タナトスは架空の病いだが、これはやはり現実の日本の話なのだ。そう思って読むならば、この物語の最後に素描される、ペシミズムの極致のその先にほの見える希望こそ、彼が何としても探り当てようとして、読者にも目を向けさせたいと願っている真のテーマなのだとわかるだろう。だが、それが何であるのかは、あなた自身に頁を繰って貰うしかない。

(ささき・あつし 批評家)
波 2015年11月号より

目次

1 ハナヂ、静脈、そして軟骨「そうそう紹介しとくね、あれチャンキ」
2 チャンキは十八歳「思春期なんかとっくに終わっている」
3 梨恵子のいる場所「あなたを好きだった自分をあたしは恥じるわ」
4 アーモンドの瞳「あたし昨夜から女の子になっちゃったのよ」
5 アーノルド・シュワルツェネッガー現れる「アンシンシナサイ」
6 ヨシモトリュウメイ、チャンキを見舞う「時おりカメ地区に行きます」
7 カメ駅に向かう二人「カエルがぬるぬるぬるぬる」
8 愛国のマユミさん「なんだかスパゲティ状態ね」
9 呪われたカメ地区探索「あしがあつい」
10 翼をください「トカゲじゃなくてイモリだよ」
11 タナトスで窓からダイブ「チャンキあたし死にたくない」
12 マドンナに問いかける「あなたたちも傷つくのよ」
13 ムハマド死す「ここはおまえがいる場所じゃない」
14 サンプルは誰? 「自分本位で無慈悲で不平等だと私も思います」
15 マグニチュード7.5「地震の瞬間、あなたはどこにいたの?」
16 二人は東京へ「日本人はもっと絶望したほうがいい」
17 淫ら、タナトス、そして解「いっぱい考えて」
18 呪われた優しい日本人「だから暗喩なのです」
19 未来へ「世界を否定しないこと」

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