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えっ、「坊っちゃん」はうつ病だった!? 名作の数々を診断します!

精神科医が読み解く名作の中の病

岩波明/著

1,430円(税込)

本の仕様

発売日:2013/02/22

読み仮名 セイシンカイガヨミトクメイサクノナカノヤマイ
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 207ページ
ISBN 978-4-10-470105-6
C-CODE 0095
定価 1,430円
電子書籍 価格 1,144円
電子書籍 配信開始日 2013/08/30

小説を開くと、そこにはあなたの知らない精神病理の世界が――。サリンジャー、川端康成、夏目漱石、ヘミングウェイに村上春樹、古今東西63の作品を取り上げ、現役臨床医が登場人物を架空診断。最新治療法や、思わず人に話したくなる薀蓄も満載。文学と精神医学の「深い関係」を知れば、読書の楽しみも倍増間違いなし!

著者プロフィール

岩波明 イワナミ・アキラ

1959(昭和34)年、神奈川県生まれ。東京大学医学部医学科卒。医学博士。精神保健指定医。都立松沢病院、東大病院などで精神科の臨床にたずさわり、2012年より昭和大学医学部精神医学講座主任教授。著書に『狂気という隣人』『狂気の偽装』『うつ病』などがある。

書評

「病」の記録としての文学史

田中和生

 実に刺激的な本である。
 題名の通り、本書は精神科医である著者が本格的な文学作品から娯楽的な小説まで、あるいは評価の定まった古典的な作品から話題になったばかりの現代文学まで、さらには近代日本文学から世界文学までを逍遥し、六十三におよぶ作家の作品について精神的な「病」を切り口に縦横無尽に語っている。まずそのことで異色のブックガイドになっており、読んだことのある作品ならそんな読み方があったのかと驚かされるし、読んだことのない作品は読んでみたいと思わせる。つまり読んでいるともっと本を読みたくなる本である。
 たとえば先ごろ亡くなったばかりの「第三の新人」の作家、安岡章太郎が一九五九年に発表した代表作である『海辺の光景』は、江藤淳の長篇評論『成熟と喪失』などによって敗戦後の日本の混乱と戦前からつづく前近代的な日本社会の崩壊が刻印された、私小説的な作品として読まれてきた。しかし著者はその作品の、適切な介護施設のなかった時代に認知症によって尊厳を奪われた老人を描いている、という側面に注目する。またギャンブル依存だったことが知られている、十九世紀ロシアの文豪ドストエフスキーが一八六六年に発表した作品『賭博者』で描いた、賭博による負債で刑務所にまで入ることになる主人公「アレクセイ」は、現在なら「病的賭博」という診断が下されるだろうと指摘する。そうして「病」という光を当てることで、様々な文学作品の意外な面が照らし出され、ひいては文学史自体がまるで別のものに見えてくることになる。
 なぜならその「病」が作品で描かれる素材に過ぎなければどうということはないが、ドストエフスキーの作品で描かれる「病的賭博」がおそらくドストエフスキー自身のものでもあったように、しばしば名作に現われる精神的な「病」は作者自身のものでもあるからだ。だから近代日本文学の作家で言えば、短篇「悪魔」でパニック発作の症状を描いている谷崎潤一郎は不安神経症だったし、美しい女性に執着するストーカー的な主人公を『みずうみ』で登場させた川端康成は女性の身体にフェティシズム的な興味を抱いていた。何度も心中事件をくり返してそのことを作品でも描いた太宰治はうつ病が疑われるし、怪異な世界に拘った泉鏡花の感受性はその不潔恐怖の症状と結びついている可能性がある。世界文学の作家でも、J・D・サリンジャー、フィリップ・K・ディック、ヘルマン・ヘッセ、テネシー・ウィリアムズ、リチャード・ブローティガンなどは、その作品に作者自身の「病」を連想させるものが少なくない。
 本書で取り上げられた作家もすべてではないが、すぐれた文学作品の書き手の多くが「病」を抱えている。だとすれば文学とは社会にとって「病」そのものであり、文学史とはその「病」の記録ではないか。
 そんなことを考えさせるのは、著者もまた「はじめに」で書いているように、なぜ文学作品で描かれるかなりの数の主人公が精神疾患を患い、しかも広く読者に受け入れられているのかという問いを抱えているからである。そのような視点がきわめて重要であることは、夏目漱石の『坊っちゃん』を取り上げた末尾の章からわかる。漱石がイギリス留学によって神経衰弱に罹ったことはよく知られているが、松山を舞台にした牧歌的な作品と言える『坊っちゃん』を読んで、その「病」を連想する人は少ないだろう。しかし漱石を「精神病性うつ病」と診断する著者は、いくつかの場面からその症状の反映をさりげなく取りだして見せる。十八世紀フランスの文学者であるルソーが書いた『告白』が、十九世紀末にフロイトが精神分析学を誕生させて初めてよく理解されたという話を思い出したが、あるいは「病」の記録である世界文学史は、精神医学による「病」についての理解が進んでさらによく読解される日を待ちつづけているのかもしれない。

(たなか・かずお 文芸評論家)
波 2013年3月号より

目次

はじめに
[I 狂気への誘い]
美しい狂気 村上春樹『ノルウェイの森』
自閉症とは何か リアノー・フライシャー『レインマン』
GIDというミステリー 東野圭吾『片想い』
妄想知覚と幻視 芥川龍之介『歯車』
八十分間の記憶 小川洋子『博士の愛した数式』
不安神経症 谷崎潤一郎『悪魔』
解離と多重人格 殊能将之『ハサミ男』
戦争神経症という病 デイヴィッド・マレル『一人だけの軍隊』
暴力への志向 中上健次『十九歳の地図』
シリアル・キラー 天童荒太『孤独の歌声』
安楽死プログラム 北杜夫『夜と霧の隅で』
グラース家のシーモア ジェローム・デイヴィッド・サリンジャー『大工よ、屋根の梁を高く上げよ』
PTSDのヒロイン 沼田まほかる『九月が永遠に続けば』
繰り返される心中 太宰治『道化の華』
まだら認知症 藤沢周『ブエノスアイレス午前零時』
アヘン中毒 コナン・ドイル『唇の捩れた男』
[II 文学と狂気の狭間で]
非定型精神病 高村薫『マークスの山』
アスペルガー症候群 スティーグ・ラーソン『ミレニアム』
薬物乱用 村上龍『限りなく透明に近いブルー』
不潔恐怖と怪異 泉鏡花『陽炎座』
ストーキングと幻 川端康成『みずうみ』
動物磁気 オノレ・ド・バルザック『ユルシュール・ミルエ』
パニック障害 南木佳士『阿弥陀堂だより』
物質Dの悪夢 フィリップ・キンドレド・ディック『暗闇のスキャナー』
認知症と尊厳 安岡章太郎『海辺の光景』
流行する発達障害 今村夏子『こちらあみ子』
頭部外傷とファンタジー カート・ヴォネガット・ジュニア『スローターハウス5』
座敷牢と癲狂院 島崎藤村『夜明け前』
炎の中の快感 重松清『疾走』
オーバードーズ 松尾スズキ『クワイエットルームにようこそ』
ロボトミー ケン・キージー『カッコーの巣の上で』
若年性アルツハイマー病 荻原浩『明日の記憶』
[III 精神世界への彷徨]
酔いどれの騎士 レイモンド・チャンドラー『長いお別れ』
躁状態 中島らも『水に似た感情』
DVと男と女 田中慎弥『共喰い』
サヴァン症候群 島田荘司『魔神の遊戯』
自動症と側頭葉てんかん 夢野久作『ドグラ・マグラ』
文豪とギャンブル依存 フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー『賭博者』
奇妙な笑い 高木彬光『人形はなぜ殺される』
精神遅滞と心 坂口安吾『白痴』
反応性うつ状態 中村真一郎『死の遍歴』
拘禁反応 スティーヴン・キング『シャイニング』
バタード・チャイルド 桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』
カルトと集団自殺 別役実『マザー・マザー・マザー』
拒食症というゲーム スティーブン・レベンクロン『鏡の中の少女』
社会不安障害 佐藤多佳子『しゃべれども しゃべれども』
通過症候群 清水邦夫『幻に心もそぞろ狂おしのわれら将門』
危機と遁走 ヘルマン・ヘッセ『クラインとワーグナー』
[IV 虚構の世界の住人たち]
犯罪被害と離人症 角田光代『八日目の蝉』
サイコオンコロジー アレクサンドル・ソルジェニーツィン『ガン病棟』
エディプス・コンプレックス 倉橋由美子『反悲劇』
睡眠時遊行症 アール・スタンリー・ガードナー『夢遊病者の姪』
トラウマと情動麻痺 辻村深月『ぼくのメジャースプーン』
窃視症 江戸川乱歩『屋根裏の散歩者』
アットリスク精神状態 テネシー・ウィリアムズ『ガラスの動物園』
悪とは何か? 桐野夏生『I'm sorry, mama.』
生気的抑うつ アーネスト・ヘミングウェイ『清潔で、とても明るいところ』
性嗜好異常 河野多惠子『幼児狩り』
オン・ザ・ボーダー 宮部みゆき『名もなき毒』
夢幻状態 リチャード・ブローティガン『バビロンを夢見て』
作話と虚言症 松本清張『小説帝銀事件』
ハーフウェイ・ハウス タッカー・コウ『蝋のりんご』
精神病性うつ病 夏目漱石『坊っちゃん』

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