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壮大なるほら吹きにして、南米の生んだ稀代の語り部――果たしてその「正体」は?

謎ときガルシア=マルケス

木村榮一/著

1,404円(税込)

本の仕様

発売日:2014/05/23

読み仮名 ナゾトキガルシアマルケス
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 250ページ
ISBN 978-4-10-603747-4
C-CODE 0395
ジャンル 評論・文学研究、ノンフィクション
定価 1,404円
電子書籍 価格 1,123円
電子書籍 配信開始日 2014/11/28

生まれ育ったカリブ海の日常生活に潜む底抜けなユーモアのセンスを手がかりに、ラテンアメリカ文学の魅力を『ドン・キホーテ』のスペイン語文学、さらにはコロンブスの“冒険心”まで溯って縦横無尽に解読。数々のマルケス作品を翻訳した著者が、ありきたりの作家論・作品論にとどまらず、世界的文豪の発想力の原点を解き明かす。

著者プロフィール

木村榮一 キムラ・エイイチ

1943年、大阪生まれ。スペイン文学・ラテンアメリカ文学翻訳者。神戸市外国語大学イスバニア語科卒、同大学教授、学長を経て、現在、神戸市外国語大学名誉教授。主な著書に、『ドン・キホーテの独り言』、『翻訳に遊ぶ』(岩波書店)、『ラテンアメリカ十大小説』(岩波新書)など。主な訳書にコルタサル『悪魔の涎・追い求める男』(岩波文庫)、バルガス=リョサ『緑の家』(岩波文庫)『若い小説家に宛てた手紙』(新潮社)、ガルシア=マルケス『わが悲しき娼婦たちの思い出』、『コレラの時代の愛』、『ぼくはスピーチをするために来たのではありません』(新潮社)、『グアバの香り――ガルシア=マルケスとの対話』(岩波書店)他、多数。

書評

波 2014年6月号より 東洋の島国から捧げられた美しいたむけの花

小野正嗣

ガルシア=マルケスがついに逝ってしまった。
この死を契機に、この20世紀最高の物語作家が残した傑作群が読み返され、彼の仕事の総体について世界規模での再評価が始まるにちがいない。そんなときに、『コレラの時代の愛』や『迷宮の将軍』、最後の小説『わが悲しき娼婦たちの思い出』の翻訳を手がけたスペイン文学者木村榮一氏の手になる本書が刊行されたことは、ガルシア=マルケスを愛読してきた、あるいはこれからこの不世出の大作家を発見しようとする日本の読者にとっては最高の贈り物である。と同時に本書は、もちろん期せずしてとはいえ、東洋の島国からガルシア=マルケスに捧げられた美しいたむけの花ともなった。
死んだ巨大な作家が辿る運命は決まっている。そのうち生前には公開されなかった資料や証言が開示され、プライベートな書簡や作品のさまざまな段階を示す草稿が、生真面目な研究者たちによって分析されるだろう。だが、そうやって積み重ねられていく作家の人生と作品についての知識の集積も、文学研究が専門化・細分化したがゆえに、ほとんどは一般の読者には共有されえないだろう。文学研究者として自戒を込めて言うが、専門家集団は研究の成果を普通の人が読んで意義がわかるような文章にして書けない上、対象分野以外については一般読者よりも無知だったりする。
その意味で、現代は作家にも読者にも不幸な時代だ。読者の与り知らぬところで作家と作品について知見が蓄積される一方で、作家の魅力を「どや!」とまるごと伝えてくれる大柄な本に出会うのがますます困難になっているからだ。
そんなところに本書が出た! こういう本が、しかもガルシア=マルケスについて書かれうるとは! 僕が興奮と羨望のあまり手を叩き足を踏み鳴らし踊り出しても当然ではないか。この自在さ、寛容さ、楽しげな口調は何なのだ――ガルシア=マルケス論が、開高健のアマゾン釣り旅行の逸話から始まり、随所に司馬遼太郎が引用されてもいるのだ。
一見、破格の本書だが、実は広範な学識と繊細な方法意識に貫かれたガルシア=マルケス徹底読本となっている。まず作家が生まれ育ったコロンビアを含むラテンアメリカがどのような世界であったのか簡にして要を得た見取り図が与えられ、次に作家の人生に焦点が絞られる。どのような家庭環境に育ち、どのような文学作品に出会い、どんな文学的な影響を受けたのか、作家志望の若きジャーナリストとしてどのような遍歴を辿ったのかが、作家自身の言葉を引きながら克明に紹介される。同時に、これがすごいのだが、「ああ、そういえばなあ」と脱線する感じで、メキシコの十七世紀の女性詩人ソル・フアナ・イネス・デ・ラ・クルスや『ドン・キホーテ』などの古典、同時代のボルヘスやバルガス=リョサについてのエピソードが惜しげもなく語られる。しかし振り返るとそれらはみなガルシア=マルケスの人物と作品の特性を立体的に浮かび上がらせることに貢献しているのだ。
とくに後半は一章ごとに、『百年の孤独』『族長の秋』『予告された殺人の記録』『コレラの時代の愛』『迷宮の将軍』といった傑作が年代順に論じられていく。その紹介と読解は、作家研究が陥りがちな二つの極端な隘路、賛美による神話化からも暴露による脱神話化からも距離を置く、実にバランス感覚に優れたものだ。目からうろこの話もたくさんあった。『百年の孤独』をガルシア=マルケスはメキシコシティーの自宅に十八ヶ月閉じこもって執筆したという超有名な伝説がある。だが現実は少し違うのだという。「夕方になると友人、知人が家にやってきたり、彼が出かけたりして、雑談を楽しんだり、小説の内容をみんなに話して聞かせた。(中略)彼は何よりも友人、知人をはじめ、いずれ読んでくれるだろう読者を喜ばせたいという一心で小説を書き続けた、つまり、語り続けたのである」
孤独について書かれた世界でもっとも有名な小説は、親密なまなざしと愉快な笑い声に囲まれた気の置けない語らいに根を持つのである。この語りの輪のなかに未来の読者も含まれていたのだとしたら、そこには当然木村榮一氏もいたのだと言わねばならない。でなければ、読者をかくも喜ばせ楽しませながら、ガルシア=マルケス作品への欲望をかくも掻き立てる本書の語り口には説明がつかない。ガルシア=マルケスの日本での最大の幸運は、作家と作品の「死後の生」を永遠にしてくれる、このような読み手を持ちえたことである。

(おの・まさつぐ 作家)

目次

第一章 新大陸発見
人は誰しも夢を織る/コロンブスの新大陸《発見》
第二章 植民地時代から独立へ
植民地時代/バロック詩人ソル・フアナ・イネス・デ・ラ・クルス/近代とラテンアメリカ
第三章 独立から現代までの文学
遥か遠くに仰ぎ見る女神/所謂「小手先の技巧」/ボルヘスの「迷宮」
第四章 作家への道
「語るために生きる」/ケルト人の血を引く祖母/カフカ『変身』との出会い
第五章 習作時代
座談の名手/お話を盛る器を見出す/ジャーナリストの仕事
第六章 旅立ち
「どえらいエネルギーを持った猛烈男」/才能を否定された『落葉』/貧乏暮らしだったヨーロッパ時代/ベネズエラの独裁者
第七章 疾風怒濤
『ドン・キホーテ』の作者セルバンテス/盲目の図書館長ボルヘス/メルセーデスとの電撃的な結婚/スランプ中の運と縁
第八章 記憶と創造
幼い頃の明確な記憶/フォークナー、ヘミングウェイらを手本に/それをいかに語るか
第九章 『百年の孤独』
《黄金郷》の夢を追い/語りの背後にある二つの目/揺らぐ時間と空間/エリアーデの指摘/語りの時間は螺旋形を描く/強風に飛ばされた羊皮紙
第十章 『族長の秋』
ロマン・ピカレスクの系譜/規格はずれの主人公/描こうとしたアンチ・ヒーロー
第十一章 悲劇としての小説
女性に関して運が悪かった詩人/一九五一年に起きたある殺人事件/『オイディプス王』の中にある悲劇的な何か
第十二章 『コレラの時代の愛』
「なんていい空気だろう!」/パナマのトリホス将軍/父親の死と新しい小説の構想/ありえない愛の物語を現実的に
第十三章 独立戦争の英雄シモン・ボリーバル
十七世紀の日本と新大陸/時代が作り上げた人物、シモン・ボリーバル/「ぞっとするほど暗い内容の小説」/イスパノアメリカの西郷隆盛
第十四章 晩年の小説二編
シエルバ・マリアの悲劇の背後にあるもの/川端康成『眠れる美女』を読んで/少女の名前に秘められた謎/《魔術的リアリズム》の作家というよりも
あとがき

担当編集者のひとこと

謎ときガルシア=マルケス

五年の歳月とマルケスの訃報 去る四月十七日、ノーベル賞作家のガルシア=マルケスが逝去しました。享年八十七。突然の訃報に驚かれた方も多かったのではないでしょうか。ただ、この世界的文豪は数年前から入退院を繰り返しており、最近では作品を物することもめっきり減っていたといいます。
『謎ときガルシア=マルケス』を編集中であった私もこの訃報を知った際、ご多分にもれず本当に驚きました。いや、驚くというより呆然としてしまったといった方が正しいかもしれません。偶然とはいえ、ちょうど本書の最終的な編集作業を終える「念校ゲラ」を印刷所に戻そうとした、まさにその時に伝え聞いたからです。ついさっきまで身近に感じていたその人物が亡くなった……何やら狐につままれたような不思議な思いでした。
 私事となって恐縮ですが、私が新潮選書編集部に異動となったのは今から五年前のことでした。異動が決まり、さてどんな企画を立てたらよいかと考えた際、思い浮かんだのが世界文学を題材にした「謎とき」シリーズでした。江川卓さんの『謎とき『罪と罰』』をはじめ、「謎とき」シリーズは新潮選書の看板ともいえるロングセラーとなっています。この「謎とき」シリーズの枠をもっと広げてもいいのでは、と考えたのです。そして題材として真っ先に思いついたのが、ガルシア=マルケスでした。早速、マルケス作品の翻訳を多く手掛ける木村榮一さんに声をおかけしたのが、選書編集部へ異動した一ケ月後のことでした。
 翻訳作品をはじめ、いくつもの仕事を抱えておられ、お忙しい最中の木村さんでしたが、私の思いつきにも丁寧に耳を傾けてくださり意気に感じていただいて、作品の世界観やマルケス本人の魅力を大いに語ってくださいました。それは決して堅苦しい文学論や作者研究に止まるものではなく、開高健や司馬遼太郎を引き合いに出したり、カリブ海の日常生活に潜むユーモアのセンスから『ドン・キホーテ』のスペイン文学、さらにはコロンブスの冒険心にまで溯り原点を探るという、縦横無尽なものでした。すぐさま私が「是非、『謎ときマルケス』を書いてください!」とお願いしたのは、いうまでもありません。ただし、それに対して木村さんのお返事は、「実際に書くとなると五年は待っていただくことになりますよ」というものでした。こうして五年の歳月の後に完成した、これさえ読めばマルケスのすべてがわかるという納得のいく本書となったのです。
 それが何という偶然でしょう、満を持して完成させた矢先のマルケスの訃報でした。不謹慎極まりない話ではありますが、私は驚くと同時に「しめた!」という感情が湧き上がるのも抑えることができなかったのです。今こそ、マルケス作品を読み返すチャンス到来だと――。

2016/04/27

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