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国家の怠慢

高橋洋一/著 、原英史/著

814円(税込)

発売日:2020/08/19

  • 新書
  • 電子書籍あり

政治、官僚、マスコミ……なぜこれほどお粗末なのか? コロナで見えた日本の弱点を統治機構のエキスパートが徹底分析。

すべては怠慢のツケである――医療は崩壊寸前にまで追い込まれ、オンラインでの診療・授業は機能せず、政府の給付金さえスムーズに届かない。新型コロナウイルスは、日本の社会システムの不備を残酷なまでに炙り出した。それは、政治、行政、マスコミの不作為がもたらした当然の結果でもあった。これまで多くの改革を成し遂げてきた財務省と経産省出身の二人のエキスパートが、問題の核心を徹底的に論じ合う。

目次
はじめに
第1章 コロナで見えた統治システムの弱点
PCR検査は全国民にしたほうがいいのか?/フェイクニュースの温床/根っこは政府の問題/政策決定と専門家の関係/なぜ緊急事態宣言は遅れたのか/官邸主導でできたこと、できなかったこと/クルーズ船は入港拒否すべきだった/平時と緊急時の切り替え/K-1も止められた/橋本行革では北朝鮮と台湾の有事を想定/GMに人工呼吸器を作らせたアメリカ/なぜ消費税減税が特効薬なのか/とにかく消費税を下げたくない財務省/政治主導ではなく官邸主導で
第2章 間に合っていたはずの規制改革
オンライン診療とオンライン教育/急にやろうとしてもできない/「対面が基本」という信念/オンライン教育で広がる可能性/公教育と私教育の格差/統制経済か自由経済か/マイナンバーが機能していれば簡単だった
第3章 なぜ役人は行革を嫌がるのか
出向と天下りで作る人間関係/霞が関ビルまで続くタクシーの列/バランスシートでわかった天下りの構図/民営化と天下りの関係/当局が民間に取り込まれる「規制の虜」/財務省のすごい巻き返し/1990年、大蔵対通産の争い/オリックス・宮内氏も登場/政策決定がゆがむ理由とは/役所は既得権の側につく
第4章 モリカケ問題と前川さん、佐川さん
加計問題は弱い規制改革/2002年に決着した「事後チェック型」への転換/議長も呆れた前川喜平氏の抵抗/本末転倒の理屈/需給関係の予測は不可能/天下りの斡旋で懲戒処分/初歩的な違法行為/文科省と大学の特殊な関係/今も不透明な再就職プロセス/森友問題の本質は事務的ミス/佐川氏は事実を語るべき/官邸の力は強くなっていない/「官邸への忖度」は本当か?
第5章 毎日新聞の「スクープ」で考える報道と国会
1面トップの記事を裁判では否定/どんな記者が書いたのか/規制改革で買った恨み?/莫大な既得権側の利益は社会悪ではないのか/「疑わしい」だけで成功パターン/新聞協会は何のためにあるのか/国会は新聞よりひどい状態/「国会での言いたい放題」への対応策はない
第6章 マスコミ報道に未来はあるのか
大学の設置認可権は内閣府にはない/新聞を堕落させる3点セット/ホリエモン騒動でできたテレビ局防衛策/ネット上の分断をどう克服するか/社会正義の実現は一般人でもできる/右も左も入れた言論空間を/新聞・テレビの労働環境は悪化/ネットメディアへの政策的後押しを
第7章 産業が丸ごとなくなる時代に
ベイシック・インカムと給付付き税額控除/様変わりする働き方改革/仕事のやり方は確実に変わる/「所得に応じた給付案」は倒閣運動/あぶり出される「必要なかった仕事」/縦割り行政にも変化が/規制はどんどんなくなってきている/業規制から行為規制へ/外国人政策のインチキを正せ/世界中が内向き傾向に/47都道府県は多すぎる/道州制で7つか8つに/注目すべき熊本市の遠隔教育/情報検証研究所を発足/マスコミによるフィルタリングという幻想
おわりに

書誌情報

読み仮名 コッカノタイマン
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 208ページ
ISBN 978-4-10-610872-3
C-CODE 0231
整理番号 872
ジャンル 政治
定価 814円
電子書籍 価格 814円
電子書籍 配信開始日 2020/08/19

書評

異色の元官僚が描き出す“異次元ワールド”

門田隆将

 小説、エッセー、ビジネス書、ノンフィクション、専門書……と、さまざまなジャンルの中で、対談本ファンが多いことには驚かされる。同じ人物の本でも、力のこもった分厚い論理的な書籍より、対談を好む読者が多いのは、何といっても「読みやすさ」からである。
 その意味で、霞が関を代表した“日本の頭脳”ともいうべき二人の元官僚が、日本が抱える問題を「国家の怠慢」という視点で、わかりやすく、かつ本質をずばりと突き、しかも、ざっくばらんに、多くのテーマを噛み砕いて私たちの前に「提示」してくれた本書の意義は際立っている。
 片やマスコミでも引っ張りだこの高橋洋一氏。東大理学部数学科・経済学部経済学科を卒業し、自称“変人枠”で大蔵省に入った異色の元官僚。安倍晋三首相のブレーンとされるが、財務省に完全に取り込まれたかたちの首相には厳しい批判も浴びせ、是々非々の姿勢を貫いている。
 片や原英史氏は、東大法学部を卒業後、米シカゴ大学院を修了、通産省で勤務したエリート中のエリート。省内だけでなく内閣安全保障・危機管理室や行革担当大臣補佐官としても活躍し、退官後は、政府の規制改革推進会議委員、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理などを務めた“ミスター・規制改革”である。
 日頃、歯に衣着せぬ二人が縦横無尽に話し合った中身が面白くないはずはない。ちなみに、私は六月末、武漢肺炎に関して中国の隠蔽の実態や、この感染症襲来に全く無策だった安倍政権を告発した『疫病2020』を出したばかりである。それだけに、特に第1章の「コロナで見えた統治システムの弱点」は実に興味深かった。
 武漢肺炎の情報や現地の凄まじい医療崩壊の実態も把握できなかった安倍政権。そのせいで感染国・中国からの水際対策に失敗したことは周知のとおりである。国内の医療体制は崩壊寸前まで追い込まれ、政府の給付金さえスムーズに届かず、ただ右往左往する姿を国民に晒した。
 やはり、多くの改革を手がけた二人の元官僚は安倍政権に厳しい評価を下している。二人は、日本の社会システムの脆弱性をコロナは暴き出した、と見ている。
「日本のやり方は全部平常時の対応なんですよ。だから、コロナの話はすごく大変だと分かっていたのに、それでも、3月は予算を参議院で審議中だからといって何もしなかったじゃないですか」と高橋氏が一刀両断すれば、原氏は、「官僚主導の問題とは何かというと、平時の安定した環境で、ちょっとずつ改善していけばいいというようなときには官僚主導はうまく機能しますが、緊急事態が起きて前例なき決断や大転換をしないといけないときには対応ができないのです」と分析する。
 情けないことに日本の統治機構は、あくまで「平時」のものであって、コロナのような「非常時」に対応できるものではなかったことを二人は強調する。全く同感だ。
 ちなみに、私はエリートの“お坊ちゃま”官僚たちや二世議員たちで占められている日本の統治機構に「戦時の対応」など、ハナからできるとは思っていなかった。コロナで日本が示した体たらくは、むしろ当然であって、不思議でも何でもなかった。
 二人の話は、さまざまなジャンルに“飛び火”する。本書で明かされた新聞記者のレベルの低さには、あらためて驚愕した。原氏への名誉毀損で訴訟にまで発展している毎日新聞記者に至っては、悲惨な表現をされている。原氏サイドが送った回答書を読み間違え、「回答文書を単に読み間違えているだけなのですが、それで記事にしてしまったらしきことも大体わかってきた。だから、最低限の日本語能力のある人を取材に出してよ、という話だったと思っています」と暴露されてしまった。
 また高橋氏はモリカケ問題でも、
「私は随意契約にしたのがおかしかったということを言ってるけど、マスコミの人は全然そういうのがわからないみたいですね。あれは、随意契約にして籠池さんみたいな人が相手だったら、もう競争入札でやり直すしかないという案件ですよ。どうしてこんなことをしてしまったのかというと、相手が教育関係者だからでしょう」
 高橋氏は、籠池氏が教育関係者だったことで逆に齟齬が生じたことを指摘し、本質を語っている。もし、教育関係者ならば、
「そんなところでたてついて変な風評がたっちゃったら、役所のほうだって学校設置認可に、二の足踏んじゃいますから。そうなったら困るから教育関係者はトラブルを起こさないようにするし、役所は平気で随意契約をやる。しかし、実際にトラブルになったら、もう競争入札でやるしかない。そこがこの問題の本質です」
 それができなかった近畿財務局の判断ミス、愚かさを暴露するのである。
 かくて本書の特徴は、一般の人間からはとても垣間見えない“異次元ワールド”ということになる。その高度な世界に分け入ってみたい方は、是非、ご入場を。

(かどた・りゅうしょう 作家・ジャーナリスト)
波 2020年9月号より

薀蓄倉庫

大新聞に名誉棄損記事を書かれたらどうする?

 大新聞に名誉を棄損される記事を書かれた場合、どうすればよいのでしょうか?
『国家の怠慢』(高橋洋一・原英史著)では、具体的なエピソードをもとに、この問題を取り上げています。
 まずはその大新聞に抗議をするでしょうが、きちんと対応してもらえない場合は、新聞協会に訴えるという手がありそうです。ただ、結論から言うと、こういう時に新聞協会はほとんど役に立ちません。「それは新聞社個別の問題」と門前払いを食らうのです。たとえばテレビ業界にはBPO(放送倫理・番組向上機構)という機関があり、問題のある番組について業界全体で対処していますが、新聞業界にはそのような機能がないのです。
 その記事の内容が国会で取り上げられたりすると、さらに問題は深刻化します。なぜならば、国会での発言には憲法上の免責特権があるからで、国会での国会議員の発言について文句を言おうにも、「責任を負えません」でおしまい。新聞報道に対しては訴訟を起こすこともできますが、国会発言は野放しというのが現状なのです。
 なぜこんなことになるのか。詳しくは本書第5章「毎日新聞の『スクープ』で考える報道と国会」で。

掲載:2020年8月25日

担当編集者のひとこと

異色の元官僚2人が示す「新時代の処方箋」

『国家の怠慢』の著者の一人である高橋洋一さんは、東京大学数学科と経済学科を卒業した異色の財務官僚で、金融ビッグバンや財投改革、郵政民営化、道路公団民営化、政府特別会計でのいわゆる「埋蔵金」探しなど、数々の改革を手掛けました。その高橋さんが官僚時代の最後に携わったのが公務員制度改革で、その仕上げをしたのが経済産業省出身の原英史さん。原さんは退官後も今に至るまで、政府の規制改革の司令塔として活躍しています。
 政治、行政のウラのウラまでを知り尽くしたお二人が、新型コロナウイルス問題で浮かび上がった日本の問題点を、徹底的に論じ合ったのがこの本です。給付金の配布程度のことがなぜスムーズにできないのか。オンライン医療、オンライン授業がうまくいかない理由は。官邸主導でできたこと、できなかったこととは。「産業が丸ごとなくなる」新しい時代の処方箋とは。
 また、原さんが標的とされた毎日新聞の「スクープ記事」やモリカケ事件などを題材に、マスコミの問題点にも迫ります。コロナで見えた日本の弱点を知りたい方は是非ご一読ください。

2020/08/25

著者プロフィール

高橋洋一

タカハシ・ヨウイチ

1955年生まれ。1980年大蔵省入省、2008年退官。小泉内閣・第1次安倍内閣では官邸勤務で様々な改革を手掛ける。

原英史

ハラ・エイジ

1966年生まれ。経済産業省などを経て2009年「(株)政策工房」設立。著書に『岩盤規制 誰が成長を阻むのか』(新潮新書)など。

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