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「オウム真理教事件」の全体像を 医療従事者の視点から描き尽くした巨編
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営業担当役員の伊藤幸人です。
歴史には、「事件」の以前と以後では社会の様相が全く変わってしまう「決定的瞬間」というべき時があります。
昨年、日本を襲った新型コロナウィルスのパンデミックがそれであり、その前で言えば、2011年3月11日に起こった東日本大震災がそれに当たると思います。
そして、さらにその前となると、1995年1月17日に阪神・淡路大震災が発生し、その不安が残る中、ふたたび日本人を恐怖の淵に陥れた3月20日の「地下鉄サリン事件」ではないでしょうか。
その「地下鉄サリン事件」からちょうど26年――。事件そのものをリアルタイムで覚えている人も減り、「オウム真理教事件」の記憶も薄れてきたかもしれませんが、いまなおサリン被害の後遺症に苦しむ人々がいることは忘れてはいけません。
未曾有の大犯罪というべき「オウム真理教事件」を風化されてはなるまいと、帚木蓬生さんが渾身の力をこめて書き下ろした作品が『沙林 偽りの王国』です(ちなみに、「沙林」とは、台湾語による「サリン」の表記だそうです)。
帚木さんと言えば、『三たびの海峡』(吉川英治文学新人賞)、『閉鎖病棟』(山本周五郎賞)、『逃亡』(柴田錬三郎賞)、『水神』(新田次郎文学賞)など、数々の優れた医療サスペンスや骨太な歴史小説で独自の文学世界を築いてきた作家ですが、現役の精神科医を務めておられ、該博な医学知識を持ち、作品のリアリティは尋常ではありません。
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冒頭には「本作品は、当時の歴史的事実をもとに、小説として構成したフィクション」と断り書きがありますが、英語の論文も多く含む膨大な「主要参考文献」が巻末に記されていることからわかるように、本格的なドキュメンタリー小説と言って過言ではありません。
『沙林』は、薬物中毒の治療・予防に詳しい九州大学医学部の教授を主人公にして、その医学研究者の視点から、「松本サリン事件」、「地下鉄サリン事件」ほか、「オウム真理教」が犯した数々の犯罪の実態、そして、主謀者の教祖麻原や幹部たちの逮捕劇と裁判、死刑執行までの全体像を詳細に描いています。
「オウム真理教事件」を扱ったノンフィクションはそれこそ山ほどありますが、『沙林』には他にはない特質が二つあると思います。
一つは、「事件」を大きな歴史の中に位置づけていることです。第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけて本格的に開発・使用された毒ガスや生物兵器の歴史、オウムの悪行とヒットラーによるユダヤ人大量虐殺との比較、日本陸軍の石井細菌部隊の軌跡――それらの流れを丁寧に追うことで、「オウム真理教事件」を単に「突然変異的に起こった特異な事件」と片付けず、これまでも人類が繰り返してきた悪行の究極の形と見ているのです。実に示唆的です。
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もう一つは、これまでの多くのノンフィクションが、加害者であるオウム真理教の信者たちの異常な行動や心理を理解しようとするあまり、被害者への視点がおろそかになる傾向があったのに対して、『沙林』は、医療従事者の視点から書かれていて、常に被害者の存在を忘れず、それにより事件の全体像を描き出していることです。そして、否応なく被害者となった無辜の人々の命を何とか救おうとした懸命な医療従事者たちがいたことを想起させてくれます。コロナ禍でも医療従事者の献身的な活動に注目が集まりましたが、「松本サリン事件」や「地下鉄サリン事件」でも、数多くの医師、看護師たちの必死で献身的な戦いがあったのです。
本を読むと、つくづく宗教という隠れ蓑をかぶった犯罪集団の危険性を痛感します。宗教団体の場合、たとえ怪しい兆候、動きがあっても、憲法で保障された「信教の自由」の壁に守られ、警察も捜査に二の足を踏むことが多いという現実があり、それをオウム側は巧みに利用していました。
結局は、自己顕示欲と強烈な学歴コンプレックスの塊だった一人の男の「妄想」に多くの人々が振り回され、その挙げ句、「松本サリン事件」「地下鉄サリン事件」を含め死者29人、6500人を超える負傷者を出すという異常なテロに手を染めてしまった「オウム真理教」。こういう偽りに満ちた集団が再び登場しないという保証はありません。
だからこそ本書を読んで、なぜこんなことが起こったのかを考え、事件の教訓を得てもらいたいと願ってやみません。
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未曾有のテロ発生直後も、 医療従事者たちは闘った――。
医師でもある著者、入魂のレクイエム。
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これは、共感を呼ぶ傑作か? 目を背けたくなる問題作か?
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この美しい罠を、あなたは見破れるか? 前代未聞&難易度MAXの挑戦状。
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『亜シンメトリー』
十市社/著
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バスの中で知り合った女性から、ゲームを持ちかけられた亜樹。シンメトリーな文字に強いこだわりを持つ彼女の人生に興味を持ち始めるが、何度か会う内、その言動にどこか違和感を覚え……(「亜シンメトリー」)。張り巡らされた緻密な仕掛けに気づいた時、世界は突然、姿を変える。めくるめく謎と驚きに満ちた全四篇。
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解説/堀本裕樹 全文公開
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『野の春―流転の海 第九部―』
宮本輝/著(新潮文庫)
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三十七年もの長きに渡って宮本輝氏が書き続けてきた自伝的大河小説「流転の海」の最終巻である第九部『野の春』を読み終えたとき、私の両眼は涙で甚く曇っていた。「熱涙」という言葉があるが、こういう折に使うのだろう。胸中から湧き出てくる感情の熱は、本書を閉じた後もしばらく渦巻いた。[→]全文を読む
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加藤シゲアキ『オルタネート』
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私は、私を育てていく。
誰しもが恋い焦がれた青春の普遍を真っ向から描き切る、 加藤シゲアキ、これが新たな代表作。
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