固有性を超え多様性へ 温又柔「祝宴」 ◎温又柔「祝宴」(230枚)は、息苦しい閉塞感に充ちた現在にこそ読まれてほしい作品だ。ある台湾人一家の娘と日本人青年との結婚を祝福する宴から始まる物語は、娘の父親・楊明虎の視点を縫い針のようにして、複層的に編まれてゆく。
 
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2022年5月号(定価1200円)4月7日発売
新潮メールマガジン[2022/04/06] うまく表示されない場合はブラウザでご覧ください
編集長から
固有性を超え多様性へ
温又柔(オンユウジュウ)「祝宴」

◎温又柔「祝宴」(230枚)は、息苦しい閉塞感に充ちた現在にこそ読まれてほしい作品だ。ある台湾人一家の娘と日本人青年との結婚を祝福する宴から始まる物語は、娘の父親・楊明虎ヤンミンフーの視点を縫い針のようにして、複層的に編まれてゆく。台湾の半導体メーカーの創業メンバーとして新興富裕層となった明虎とその妻。「外省人」として大陸と台湾の狭間に生きざるをえなかった明虎の親世代。そして、台湾よりも日本(と日本語)での人生がはるかに長いふたりの娘。価値観の異なる各世代が織りなす物語の下地には、台湾固有の近現代史があり、中国語と台湾語が混在する固有の言語環境があることは言うまでもない。だが、温氏が「祝宴」において真に発見したものとは、台湾の固有性を超えたものではないか。その場所がどこであれ(台湾であれ日本であれ、苛烈な紛争地域であれ)、そこに営まれる生の多様性。それをこそ小説でしか表現できない形で温氏は祝福してみせたのだと思う。

編集長・矢野 優
新潮2022年5月号表紙
目次

祝宴[二三〇枚]/温又柔
信じていた。娘の最大の理解者は父の自分だと。国籍、階層、セクシャリティ。ふつうを問い、日中台を舞台に多様な生を切り拓く渾身作!
霊たち三国美千子
なぜ私と息子に遠い実家の先祖が見えるのか。三島賞作家のマジックリアリズム的快作。
メアリー・Bの献呈かげはら史帆
この楽譜の作曲者が女だったら?――二百年の時を経て甦る、夫人たちの「秘密結社」。
■■ 連載小説 ■■
墳墓記(五)/高村 薫
TRY48(六)[第6章]寺山修司、キタサンブラックに賭ける/中森明夫
大使とその妻(九)/水村美苗
聖都創造(十八)/天童荒太
天使も踏むを畏れるところ(二十二)/松家仁之
漂流(三十三)/町田 康
チェロ湖(三十四)/いしいしんじ
荒れ野にて(六十九)/重松 清
■■ 新潮 ■■
暗闇の中を生きる――映画『重力の光』に関する覚書石原 海
格ゲー沼にハマる川添 愛
夢の続きを熊谷充紘
出会い直しの広場へようこそ瀬尾夏美
【緊急報告】
無数の橋をかけなおす――ロシアから届く反戦の声奈倉有里
本の武器庫――キエフの文化的最前線からの報告ベンジャミン・モーザー 訳・村松 潔
第55回《新潮新人賞》応募規定 [ウェブ応募受付中!]
【新選考委員発表】上田岳弘/大澤信亮/小山田浩子/金原ひとみ/又吉直樹
川端康成没後50年
【新発見3点】
川端康成「篝火」草稿 三島由紀夫川端康成宛書簡
「一九七〇年 富士山麓の兵舎より」
横光利一川端康成宛書簡
「一九四七年 一番手紙を書かなければならぬ人へ」他二通

初公開資料からうかがえるもの中島国彦
「死」への疾走がはじまる日附富岡幸一郎
追悼・青山真治樋口泰人
残り火をくべる人――追悼ジョーン・ディディオン新元良一
川上未映子『春のこわいもの』を読む
空中を漂う不穏谷崎由依
きょうはあしたの前日だから三輪健太朗
精神の考古学(五)/中沢新一
第三部 精神のアフリカ的段階を開く(二)
【新連載リレーコラム】街の気分と思考(4)
猫のなかの町青山七恵
窓の向こうの町平野紗季子
壺中の天地 泥梨桟道(六)/エリイ(Chim↑Pom)
大楽必易――わたくしの伊福部昭伝(十五)/片山杜秀
小林秀雄(八十四)/大澤信亮
地上に星座をつくる石川直樹
第百五回・毎日走る
見えない音、聴こえない絵大竹伸朗
第二〇四回・レンブラントとモンキーズ
【私の書棚の現在地】
パーヴェル・ペッペルシテイン『地獄の裏切り者』/【書評委員】高山羽根子
『小説 映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争リトルスターウォーズ2021』/【書評委員】乗代雄介
■■ 本 ■■
松浦理英子『ヒカリ文集』木村朗子
エリイ『はい、こんにちは』小林エリカ
遠野遥『教育』豊崎由美
金原ひとみ『ミーツ・ザ・ワールド』水上 文


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「新潮」から生まれた本
作家の私は、柔道家を取材して作品を執筆しようとするが――。焦れったさ満点の恋愛小説。
『格闘』高樹のぶ子/著
どこにも悪人はいない。それぞれの善意がすれ違っただけだ……。信仰、裏切り、未練、救い――。新発見戯曲は傑作揃い!
『善人たち』遠藤周作/著
自分たちは、この教えを、国教にするんですよ――サリン事件をモチーフに、現実と虚構が融合する超大作。
『曼陀羅華X』古川日出男/著
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