「新潮新書」メールマガジン[511号] 2024年8月10日発行
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今月の編集長便り
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気候変動にも社会変動にもご注意を
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“日傘男子”の姿もすでに当たり前、暴力的ともいえるほどの猛暑が続きます。その原因を問われれば、たいていの人は地球温暖化、解決策は脱炭素化だと答えることでしょう。8月新刊『脱炭素化は地球を救うか』(池田信夫・著)は、温暖化と脱炭素をめぐるこの定説に、根本的な疑問を突きつけます。地球が温暖化しているのは事実だが、そもそもそれは「悪いこと」か。現在、世界中で押し進められる脱炭素政策はどこまで「正しいこと」なのか――「工業化以前から気温上昇1.5度以内」のスローガン達成に要する空前の経済コストに、人類は本当に耐えられるのか――データとともに不都合な真実を提示します。
今年はアメリカ大統領の選挙イヤー。もしこの男が再登板となれば、温暖化問題はじめ安全保障や経済など、グローバルな影響は計り知れないものがあります。『トランプ再熱狂の正体』(辻浩平・著)は、NHK国際報道部の第一線の記者が、政治やマスメディア、教育現場などアメリカ社会の様々な分断を描くルポルタージュ。11月の投票日まで3か月に迫り、バイデン撤退とハリス出馬によって対決の構図こそ変わりましたが、超大国の大分断は、誰がリーダーになるにせよ、世界の不安要因であり続けるでしょう。
メジャーリーグをよく見るかたはご存じのように、近年、このスポーツにおけるデータ解析の進化のスピードには目を見張るものがあります。球速に回転数、打球速度に飛距離、個々の動作解析やチームごとの傾向と対策……etc. この潮流は日本でも同様で、選手の能力査定、トレーニング法、チーム編成の方針、投球術、打撃術など、あらゆることがデータ分析されています。映画「マネー・ボール」から13年、『データ・ボール―アナリストは野球をどう変えたのか―』(広尾晃・著)は、こうしたプロ野球の「データ革命」を担う多くのデータ・アナリストたちに取材し、近年のプロ野球の変貌ぶりを事細かに描きだします。
『オスの本懐』(和田秀樹・著、池田清彦・著)は、ともに多くの著書と社会的な発言で知られる医師と生物学者の対談。テーマは硬くいえば「現代社会とオスの変容について」ですが、近ごろの男性たちが、老若とも何だか元気がないのはなぜなのか、学問的な知見と蘊蓄をふまえた本音トークです。過剰なポリティカル・コレクトネスに対する違和感、老いや病いがもたらす心身の自然な変化など、なぜか「生きづらい」今どきの世の中の話題を織りまぜながら、「オスがオスらしく生きるための答え」を探します。
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編集部便り
〈その257〉
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割を食ったイチロー
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8月刊の『データ・ボール―アナリストは野球をどう変えたのか―』を編集していて、野球に関して「なるほど。そういうことだったのか!」と納得したことがいくつかありました。
例えば「フライボール革命」。これは10年くらい前からメジャーリーグで主流となっている、レベルスイングではなくアッパースイングによって野手の上を越えていく強い打球を打とう、という考え方ですが、この前段には「守備シフト」というメジャーの傾向がありました。つまり、「この選手はこういう方向にこういう打球を打つ可能性が高い」というデータが共有されたことで、打者によって野手が守備体系を変える戦略が一般化していた。フライボール革命は、この守備シフトを無効化するための手段として取られていった、という流れがあったわけです。
フライボール革命において重要視されるのは、「適切な角度で強い打球を打つこと」。そこで重要視される評価指標は打球速度、そして本塁打などの長打力になります。近年のメジャーリーグで、大谷翔平やアーロン・ジャッジなどの長距離砲が、その数年前には考えられなかったような超大型契約を手にしているのには、明らかにメジャーの評価軸の変化が背景にあります。
それを理解すると、『データ・ボール』ではそこまではっきり書いていませんが、この流れの中で「割を食った」選手もいることが理解できます。例えばイチローです。早打ちの安打製造機ながら打球速度は速くなく、したがって長打力にも乏しく、打率の割に出塁率が高いとは言えないイチローは、最近のメジャーでは評価されないタイプの選手でしょう。現役最後の頃のイチローは、その実績に比して低い評価しか得られていなかった印象がありますが、その背後にはメジャーでの野球観の変化、評価軸の変化という現実があったわけですね。
そういう近年の野球の流れが、本書を読むとはっきりと分かります。野球好きの方が読めば、「なるほど!」という発見が必ずあると思います。
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