編集長から 「新潮」三月号
連合赤軍事件をめぐる小説の決定版
一九七一年から翌年にかけて「総括」の名のもとに、次
々と同志たちの命を奪った連合赤軍事件。立松和平氏は
同じ全共闘世代として、これを書く義務を自らに課して、
長編の連載を始めましたが、軽挙と誤解による不幸な盗
用事件で、中断を余儀なくされました。以来四年半、汚
名を雪ぐべく一から出直した作者は、本誌に発表の舞台
を移して、己れの作家生命のすべてを賭けて、「光の雨」
全八八〇枚を問います。主人公は主犯・玉井潔八〇歳。
尽きんとする命を振り絞って語りつがれる、恐るべき事
件の全容と、彼の心中は?
今回は前篇四三〇枚。中・後篇は四・五月号をお待ち
ください。小説は他に、辻章氏「青山」と、岡田睦氏
「母」の二佳篇。
昨年末、生涯現役のまま急逝した中村真一郎氏の文業
を偲んで、追悼特集「中村真一郎の遺産」を組みました。
座談会は丸谷才一、菅野昭正、池澤夏樹の三氏。短編中
心の私小説的風土を嫌って、西欧や王朝を範に全体小説
を開拓、近年は江戸の文人たちに親炙の度を深めていた
氏でしたが、その志操の先駆性と重要性は今後ますます
認識されていくことでしょう。エッセイは小田実、竹西
寛子、辻邦生、古井由吉、宗左近、加賀乙彦氏。連載中
だった「木村兼葭堂のサロン」は今回を遺稿に終了しま
すが、原稿は最終章まで生前に完成しており、全篇をい
ずれ小社より単行本として刊行の予定です。
評論は大久保喬樹氏「樹木、鳥、ウィルスの黙示録」。
大江健三郎、村上春樹、村上龍の近作に示される「自然」
の衰退、変容に着目して、現代文学の特質を俯瞰します。
水上勉氏「説経節を読む」は今号で完結しました。
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