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編集長から  「新潮」4月号
新訳「悪の花」とダブル対談
 本誌に「まだら文」を連載中の杉本秀太郎氏は、専門
のフランス文学は勿論、和漢洋の古典や芸術にも造詣が
深く、現代では稀な多芸多才の文人として知られていま
すが、このほどボードレール「悪の花」(「悪の華」に
あらず)の新訳を試みました。近代の幕明けを告知した
「新しい戦慄」の書として、上田敏以来苦心の名訳はさ
まざまありましたが、戯詩を中心に好みの作をよりすぐ
ったというだけあって、原典の演劇的要素を浮彫りにし
た、軽妙で明晰なこの新訳に接すると、既訳がおそろし
く生真面目で、曖昧陳腐に見えてしまうのが、不思議で
す。小説は立松和平氏「光る雨」の続篇二三〇枚と司修
氏「青銅(ブロンズ)」の二篇。評論は福田和也氏の
「見張り塔から、ずっと」第二回ほか。
 小島信夫「うるわしき日々」と高村薫「レディ・ジョ
ーカー」は、タイプは異なりますが、共にその現代を深
く穿ったテーマが注目され、昨年度の収穫として評判の
高かった二著です。両作をめぐってダブル対談が実現し
ました。小島信夫・江藤淳氏「雨漏りする戦後・”家”
という思想」と高村薫・石原慎太郎氏「現代の社会工学
と人間」は、今日の社会の混迷を原点から見据えて示唆
に富みます。
 第八回新潮学生小説コンクールは、藤井健生氏「サブ
レ」が入選しました。作者は女子高の三年生で、主人公
と同じ双子。「未成の者が持っている感受性が真っすぐ
に表現されている」「物語世界に集中する視線の静かな
力強さで読み手を引き込んでゆく」と、佐伯一麦、小川
洋子両選考委員から高い評価を得ました。なお、小誌通
巻千号を記念して設けられた本コンクールは今回を以て
終了します。